2023年2月6日に発生したトルコ南部の地震(Mw 7.8、 Mw 7.5)について

第六報 トルコ南部の地震(Mw7.8およびMw7.5)に伴う地表地震断層と変位量分布

活断層・火山研究部門 近藤久雄・今西和俊
トルコ鉱物資源開発調査総局 Selim Özalp

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【2023年4月6日追記】
 2023年3月20日に下記のMw7.8およびMw7.5の地震に伴う地表地震断層と変位量分布を報告しました。その後も継続的に検討した結果、Mw7.5の地震断層東端付近について、東北東方向へ延びる余震分布と調和的な地表地震断層がみつかりました。地表地震断層は、Emre et al. (2013)が報告するドアンシェヒル(Doğanşehir)断層帯の東約5kmに位置し、長さ約14kmの区間で確認できます(図1)。このドアンシェヒル区間と主要な東西方向の地表地震断層との間には、依然として25km前後の不連続が存在しています。ドアンシェヒル区間で計測できた左横ずれ変位量は、最大で2.0mでした。これらの結果、Mw7.5の地震に伴う地表地震断層は、25kmの不連続を含めた場合の総延長は138km、含めなかった場合は113kmに達することがわかりました。また、Mw7.5の地震に伴い、チャルダック断層の区間とドアンシェヒル区間の少なくとも2つの活断層が連動したと考えられます。【追記ここまで】

 トルコ南部の東アナトリア断層系を震源として、2023年2月6日にマグニチュード7.8および7.5(Mw7.8とMw7.5)の地震が発生しました。産総研地質調査総合センターのHPで2月22日に報告した第二報と3月9日に報告した第五報に引き続き、トルコ地図総局(HGM)によって地震後に撮影された航空写真をもとに、Mw7.5の地震に伴う詳細な地表地震断層のマッピングと変位量(ずれの量)計測をおこないました。地表地震断層については、USGSによる速報(Reitman et al., 2023)により一部が報告されています。Mw7.5に伴う地表地震断層の全体像の把握や変位量(ずれの量)計測の方法は、第二報および第五報と同じです。取得した地表地震断層の位置情報は、現時点で約1000地点です。また、地震に伴う変位量は水平成分のみを計測し、地表地震断層全体で約80地点で計測しました。今回は、地表地震断層と震源断層との関係をより詳しく検討するため、高精度震源決定法による余震分布(Lomax, 2023)を重ねて図1に示しました。なお、記載された内容は速報であり、今後の調査研究の進展により修正・変更することがあります。
 Mw7.5の地震に伴う地表地震断層は、確認できた範囲で総延長約100kmにおよぶことがわかりました(図1)。西端は、ギョクセン(Göksun)の町から南約2kmの地点に位置し、第一報で報告した活動範囲よりも約15km西であることがわかりました。また、東端は、USGSの震央位置から東へ約40kmに位置し、Emre et al. (2013)が示すシュルギュ断層の西端付近です。さらに東のシュリュギュ断層の主要部分では、これまでのところ地表地震断層はみつかりませんでした。今回の詳しい検討では、Mw7.5の地震では主にチャルダック断層が活動し、シュリュギュ断層は西端付近のみが活動したと考えられます。また、余震分布をみると地震断層の東端付近からマラトヤ(Malatya)の南へかけて、東北東方向へ線状に余震が延びています。この付近には顕著な活断層は知られていなく、現時点では地表地震断層もみつかりませんでした。Mw7.5の本震に伴って動いた断層かどうか、今後検討する余地があります。
 地表地震断層沿いにプロットした変位量分布を図2に示します。計測した中で最大の変位量は、第二報の図3(Kondo and Özalp, 2023)で報告したものと同じ左横ずれ9.1mです。Mw7.5に伴う変位量と地震断層の分布には、急激に変位量が減少する区間や断層の不連続など、明瞭な断層セグメント(例えば、McCalpin, 1996;Kondo et al., 2004;Duman and Emre, 2013;Emre et al., 2021)が識別されませんでした。したがって、Mw7.5の大地震は、震源から破壊が始まり東西の双方向へずれが広がっていったものの、単一のセグメントが一つの大地震として活動した可能性もあります。
 なお、Mw7.8の地震に伴う地表地震断層についても再検討をおこない、ギョルバシュ(Gölbaşı)から東へ分岐する長さ約7kmの地表地震断層と左横ずれ変位量も図2に追記しました。この分岐断層は、Reitman et al. (2023)が報告した地表地震断層と同じものとみられます。この結果、これまでに確認された地表地震断層の長さは、総延長で約320km(東アナトリア断層約290km、Mw7.8の震源付近のナール(Narlı)区間約25km、ギョルバシュ分岐断層約7km)になります。
 今回は、Mw7.8の地震に加えて、Mw7.5の地震に伴う地表地震断層全体を速やかに把握し、横ずれ断層の主成分である横ずれ変位をもとに変位量分布を詳細に検討しました。今後、地表踏査や現地測量によって、さらに詳細な地表地震断層の分布や上下変位成分・水平短縮成分を含む正確な変位量の分布が明らかにされるものと期待されます。

図1 Mw7.8およびMw7.5の地震に伴う地表地震断層の分布。

図1 Mw7.8およびMw7.5の地震に伴う地表地震断層の分布。赤色と青色のドットはそれぞれMw7.8およびMw7.5に伴う地表地震断層を確認した地点。白色の矩形は雪、雲、森林などに覆われ確認できていない地域。黄色星印はUSGSのwebsiteによる震央位置。黄色線は活断層線(Emre et al., 2013;Styron and Pagani, 2020)。紫色と橙色のドットはLomax (2023)により決定された高精度震源(マグニチュード0.5以上)で,それぞれ2023年2月6日のMw7.8地震発生時から3月4日時点まで、および2020年1月1日からMw7.8発生時までの震源。基図はSRTM90による地形陰影図。

図2 Mw7.8およびMw7.5の地震に伴う変位量分布。赤丸と青丸がそれぞれMw7.8およびMw7.5地震に伴う左横ずれ変位量の計測値。黄色星印はUSGSのweb siteによる震央位置。

図2 Mw7.8およびMw7.5の地震に伴う変位量分布。
赤丸と青丸がそれぞれMw7.8およびMw7.5地震に伴う左横ずれ変位量の計測値。黄色星印はUSGSのweb siteによる震央位置。

衛星画像で断層の水平方向のズレの有無を調べた点をプロットしました。ズレの量は道路等との大きさの比較から推定しており、数10 cm以下の誤差を含みます。ズレが視認できない場合はゼロと表現しました。セグメントの端点は、断層線の連続性や、断層にそってズレが次第に減少して視認できなくなり、そこから先にズレを視認できない区間が数㎞以上にわたって続く場合(図中でグレーの区間)に設定しました。雪や雲などの影響で地表のズレが視認できない区間が広い場合は、活断層と関係すると思われる地形も参考にしてセグメント区分を行いました。データが少なく端点の設定に不確実性が残る場合は図中に疑問符をつけています。

参考情報

  • Duman, T.Y. and Emre, Ö. (2013) The East Anatolian Fault: geometry, segmentation and jog characteristics. Geological Society of London Special Publication, 372 (1), p. 495–529.
  • Emre, Ö., Duman, T.Y., Özalp, S., Elmacı, H., Olgun, Ş. and Şaroğlu, F. (2013) Active Fault Map of Turkey with and Explanatory Text. General Directorate of Mineral Research and Exploration, Special Publication Series-30. Ankara-Turkey.
  • Emre, Ö, Kondo, H., Özalp, S. and Elmacı, H. (2021) Fault geometry, segmentation and slip distribution associated with the 1939 Erzincan earthquake rupture along the North Anatolian fault, Turkey. Geological Society of London Special Publications, 501(1), doi: https://doi.org/10.1144/SP501-2019-141
  • HGM website, https://www.harita.gov.tr (Accessed: March 16, 2023)
  • Kondo, H., Awata, Y., Emre, Ö., Doğan, A., Özalp, S., Tokay, F., Yıldırım, C., Yoshioka, T. and Okumura, K. (2004) Slip Distribution, Fault Geometry, and Fault Segmentation of the 1944 Bolu-Gerede Earthquake Rupture, North Anatolian Fault, Turkey. Bulletin of the Seismological Society of America, 95, 1234–1249. doi: https://doi.org/10.1785/0120040194
  • Kondo, H. and Özalp, S. (2023) Second report 'Preliminary report on surface ruptures associated with Mw7.8 and Mw7.5 earthquakes in southern Turkey'. Geological Survey of Japan web site, https://www.gsj.jp/en/hazards/earthquake-hazards/turkey20230222.html
  • Lomax, A. (2023) Precise, NLL-SSST-coherence hypocenter catalog for the 2023 Mw 7.8 and Mw 7.6 SE Turkey earthquake sequence. doi: https://doi.org/10.5281/zenodo.7699882
  • McCaipin (1996) ‘Paleoseismology’, Academic Press, 588 pp.
  • Reitman, N.G., Briggs, R.W., Barnhart, W.D., Thompson Jobe, J.A., DuRoss, C.B., Hatem, A.E., Gold, R.D., Mejstrik, J.D. and Akçiz, S. (2023) Preliminary fault rupture mapping of the 2023 M7.8 and M7.5 Türkiye Earthquakes. doi: https://doi.org/10.5066/P985I7U2
  • Styron, R. and Pagani, M. (2020) The GEM Global Active Faults Database. Earthquake Spectra, 36, p.160–180. https://doi.org/10.1177/8755293020944182
  • USGS web site, https://www.usgs.gov/news/featured-story/m78-and-m75-kahramanmaras-earthquake-sequence-near-nurdagi-turkey-turkiye (Accessed: March 16, 2023)

問い合わせ先: 産総研地質調査総合センター