06034_1956
5万分の1地質図幅説明書
(秋田 第 34 号)
通商産業技官 大和栄次郎
地質調査所
昭和 31 年
目次 I. 地質 I.1 概説 I.2 古生層 I.2.1 千枚岩帯 I.2.2 粘板岩帯 I.3 緑色変成岩 I.4 深成岩類 I.4.1 閃緑岩 I.4.2 花崗閃緑岩 I.5 脈岩類 I.5.1 花崗閃緑岩質斑岩 I.5.2 流紋岩 I.6 第四系 II. 応用地質 II.1 概説 II.2 鉱床 II.2.1 六黒見金山 II.2.2 長者森鉱山 II.2.3 北竜鉱山 II.2.4 恩徳金山 文献 Abstract
1 : 50,000 地質図幅説明書 (昭和 30 年稿)
(秋田 第 34 号)
本図幅は岩手県の地質調査事業の一端として, 南隣遠野図幅とともに, 昭和 25 年 10 月から 60 日間概査し, さらに翌 26 年 3 月, 地質調査所によって 30 日間これを補足調査し, 土淵図幅として完成したものである。
調査にあたっては, 岩手県土木部ならびに遠野土木事務所, 土淵村を初めとする各関係町村から多大の便宜を供与された。
なお, この調査には航空写真を使用した。
北上山地のほゞ中央部, 遠野町を中心として広大な面積に亘って, いわゆる遠野花崗閃緑岩 1), 2) が分布している。 本図幅地域の大部分は, この花崗閃緑岩類の一部によって構成されており, そのほかには, 図幅地域北東部と南東部に古生層を主とする諸岩層の小分布がある。 両者の分布する地域は地形図上でも区別できるほど対蹠的であって, 花崗閃緑岩地帯が一般にいわゆる準平原の地形を示すのに対して, 古生層地帯は著しく急峻な地形を示している。
古生層は一部を除いては石灰岩を挾むことが少なく, 地域内およびその連続する地域において, 化石の産出はまだ知られていない。
北東部の古生層は, 岩質上から, 千枚岩帯と粘板岩帯の2帯に区別することができる。 前者は少量のチャートと輝緑凝灰岩を挾み, いわゆる北上北部型古生層 1) に属し, 後者は南東部の古生層とともに, 石灰岩を挾むことで特徴づけられる北上南部型古生層 1) に属するものと考えられる。 このように著しく岩相の異なる2種類の古生層が存在するので, この地域北東部の古生層は, 南部および北部型両古生層の分布の境界附近に当るものと思われる。 一方, 南東部の古生層は南隣の遠野図幅に広く分布する南部型古生層の延長であって, 石灰岩の発達が著しい。
これらの古生層は, 一般走向が北部では NNW ‒ SSE, 南部では N ‒ S ないし NNE ‒ SSW で, 中間部は遠野花崗閃緑岩の迸入によって南北に切断されているが, その迸入前には, 各岩層は弧状の形態で連続していたものと思われる。 この弧状の形態は北部北上山地の古生層の基本的構造であって, 本地域内から北へゆくにしたがい, 走向は次第に西に偏り NW ‒ SE となるが, 南部は NNE ‒ SSW からふたたび N ‒ S に変わり, 逆 S 字型を示している。 このように北から南へ色々その方向を変えている弧状の形態は, 図幅地域南方で北上中軸構造線帯 3) の東縁である大船渡 - 遠野線によって切断される。
北部北上山地においては, 上記の弧状の構造に支配されて塩基性岩が分布する。 すなわち外側弧状体列 1) といわれ, 地域北西方の早池峯山の塩基性岩を主岩体として, 弧状に分布するものがこれである。 この体列は この北東側にこれとほゞ平行に発達する いわゆる輝緑凝灰岩と図幅地域北方で交会し, 一帯となり, そのまゝこの図幅地域まで連続している。 この図幅ではこれを緑色変成岩と呼んでいるが, 岩質からみると, 角閃岩を主とし, 圧砕された斑粝岩質あるいは閃緑岩質岩石, 少量の蛇紋岩などからなり, また一部には点紋黒色粘板岩・含赤鉄鉱珪岩などが介在し, 一般の塩基性岩あるいは輝緑凝灰岩とは, その趣きを異にするものである。
この図幅地域は北上内側迸入帯 4) , あるいは北上中軸迸入帯 3) といわれている地帯であって, これは遠野花嵐閃緑岩の迸入により代表されるのであるが, この迸入前の火成岩類には, 釜石鉱山北方の片羽山を中心として分布する閃緑岩などがあり, 迸入後のものには, 花崗閃緑岩質斑岩・流紋岩などがある。 この流紋岩は北上山地で流紋岩の分布する3地域のうちの1つで, 図幅地域内では第四紀を除いて最も新しい岩石である。 遠野花崗閃緑岩は日本の花崗岩類では最も普通の型であって, 北上山地の花崗閃緑岩類中最も広大な分布を示している。 中粒ないし粗粒の花崗閃緑岩を主体としているが, その内部は決して均質なものではない。 すなわち, この岩体の東部は 一般に塩基性円形捕獲岩(basic ovoidal xenolith) を含むことが多く, 石英の量が少なくなるとともに, 角閃石の量が黒雲母の量より多くなり, 石英閃緑岩質となったものが分布し, 中央部はやゝ塩基性の細粒のものが分布している。 西部はアプライトの多い地帯であって, 石英が多くなるとともに有色鉱物, ことに角閃石の量が減じ, アダメロ岩質のものが分布する。 さらにこのアダメロ岩質の地帯の一部には, 自形, 長柱状の黒雲母の存在を特徴とする粗粒のアダメロ岩が見られるなど, いろいろの岩相がある。 しかし, これらは1つの岩体として -- 東部岩体と西部岩体の間に, 迸入時期に多少の差があるかもしれないが -- 大局的には古生層の層理に沿って, 部分的には古生層を切って, 迸入しているものと考えられ, この状態は岩体の東半分の突出部にもよく見られる。 すなわち, 花崗閃緑岩は古生層の弧状の構造の突出部の形にしたがって, 迸入しているような分布を示すが, 一部ではこの弧状構造を切っている。
迸入の時代は, 北上山地の大部分の花崗閃緑岩類の迸入の時期である 三畳紀ないし白堊紀と思われるが, これをさらに詳細に決定する積極的な資料はない。
この岩帯は図幅地域北東隅, 小国村から金沢村に至る県道を中心として, 土坂峠一帯, 金沢川上流流域などでよく観察される。
主として暗灰色あるいは黒色の千枚岩および粘板岩からなり, 層内褶曲の著しい 灰緑色ないし暗緑色の輝緑凝灰岩と 灰緑色ないし灰白色の珪岩とを挾む。 このほか土沢川から土坂峠にかけて砂岩が見られ, 長者森北方の山頂には, 厚さ 1~2 m 以内の細粒結晶質の石灰岩が見られる。
一般の走向は N 30°W, 傾斜は 50°以上で東または西へ傾斜し, しばしぼ垂直になるほど急傾斜していることがある。 各岩層は帯状に分布し, また1つの岩層は走向の方向に連続し, 追跡することができるが, 輝緑凝灰岩が層内褶曲を行っている点や, いずれの岩層も圧砕作用を著しくうけている点, また, 土坂峠西面に背斜軸, 金沢川に沿う戸沢附近に向斜軸がある点など, この岩帯は複雑な褶曲運動の過程を経て, 現在のような分布を示すようになったものと思われる。 構造が複雑であるため, 実際の厚さおよび層序関係などは不明である。 前記の背斜・向斜の軸附近では, 地層にやゝ擾乱が認められ, このような弱線に沿って, 石英粗面岩・変輝緑岩・石英脈などが貫入しているものと考えられる。
この岩帯に含まれるものには, 北東部のオーヅ岳から 躑躅 峠一帯に分布するもの, その南方に花崗閃緑岩を隔てて笛吹峠一帯に分布するもの, および六黒見金山一帯のもの, の3つの地帯がある。 これらはその量に多少の差異はあるが, 主として粘板岩・砂岩・石灰岩の互層, およびそれらを原岩とした変成岩からなるものである。
北部のオーヅ岳一帯のものは, 小国村大仁田から躑躅峠に至る道路上, 小国川支流曽呂滝附近(クマンダ), 土淵村恩徳から立丸峠に至る県道に沿ってよく露出している。 一般の走向・傾斜は N 20°W, 60~80°W であるが, 南部の花崗閃緑岩に近い部分では多少の擾乱を示している。 この岩帯は一般にホルンフェルスになっていることが多く, ことに花崗閃緑岩体に近い躑躅峠附近・立丸峠附近の接触地帯では, 砂岩は花崗岩化作用をうけて紫色の片状を呈するホルンフェルスとなっている。 この岩石は黒雲母の新生が目立ち, この黒雲母は砂岩中に存在した小さなジルコンによって多色暈を示している。 粘板岩は砂岩同様に紫色を呈する点紋粘板岩となり, 1~2 mm 大の黒雲母, 1 mm 大の菫青石および空晶石を生じている。 なお, 大仁田から曽呂滝に至るほゞ中間に, 50~100 m の厚さの石灰岩が挾有され, かつて大理石として採石されたことがあるというが, 層理面の方向に剝げ易く, 良質のものとはいえない。
笛吹峠附近の岩帯は, 南隣遠野図幅地域内に見られる古生層の延長であって, 遠野から笛吹峠に至る県道と土淵村金掘沢とに沿って, かなりよく観察することができる。 この岩帯の東西の両側には花崗閃緑岩が迫り, ほゞ走向の方向に延びた楔状の分布を示す。 一般走向は N 20°W で, 50~80°の角度で西へ傾斜しているのが一般の傾向で, 花崗閃緑岩が迫っているが, 地層の擾乱は全く見られない。 主として粘板岩・砂岩, およびこれらと同時代の火山噴出物と思われる緑色岩類からなる。 粘板岩は北部のものと同様にホルンフェルスになっているのが普通で, なかには点紋を生じ, 点紋の大きさが 3~5 mm に及ぶものも見られる。 点紋ホルンフェルスの最も著しいものは, 花崗閃緑岩からやゝ離れた笛吹峠附近, あるいは金掘沢上流などに見られる。 金掘沢のものは 3 mm 大の黒色あるいは帯紫色の点紋が, 灰色の基質のなかに多数散点しているもので, この点紋は黒雲母の小結晶の集合体と, 篩状構造を示す白雲母および紅柱石とからなる。 緑色岩類は遠野図幅の六角牛山を標式地とするものの延長であって, 粘板岩を挾み, 肉眼で見れば輝緑岩・玢岩あるいは細粒の閃緑岩様の岩石からなり, 笛吹峠南西の県道附近では, 1,500 m 以上に達する厚さを示すが, 金掘沢では粘板岩とinter-finger して急に尖滅する。 顕微鏡下ではいずれも 安山岩質の岩石あるいはその(角礫)凝灰岩を原岩とするものであって, 斑晶である輝石はそのほとんどが角閃石に変化している。 長石の斑晶の散点する玢岩様のものは, 暗灰色, 緻密, 堅硬で, 角閃石はさらに黒雲母に変化し, 部分的にモザイクの石英も見られ, 花崗閃緑岩の影響を受けたものと思われる。
なお, 石灰岩は笛吹峠北方の権現山東方に1カ所露出するが, 花崗閃緑岩と直接する位置にあり, 粗粒の結晶質となっている。
六黒見金山附近の岩帯は, 粘板岩・石灰岩を主とする。 石灰岩は上述の2地域に較べてその量が多く, 六黒見金山を初めとする接触鉱床胚胎の因をなしている。 一般走向は N20~30°W, 傾斜は西部では 70~80°E, 東部では 70~80°W で, 花崗閃緑岩に接する部分はその迸入の影響を多少示し, 擾乱されている。 この地帯の岩石も花崗閃緑岩の影響を強くうけており, 鉱山附近の粘板岩は雲母片岩・片状点紋ホルンフェルスとなり, この東方約 3 km に分布する厚さ約 400 m の黒色粘板岩は, 空晶石菫青石ホルンフェルスとなり, 1 mm × 3 mm 大の美麗な空晶石の結晶を含む。
地域北東部の千枚岩帯と粘板岩帯との間に, この両者と断層で境し, 帯状に NNW ‒ SSEの方向に分布する。 この方向は千枚岩帯の一般走向にほゞー致し, 粘板岩帯の走向とは僅かに斜交する。
この岩帯の西半分は角閃岩からなり, 北東部はおもに圧砕変質された斑粝岩質岩石・閃緑岩質岩石からなり, この両者の中間には蛇紋岩が貫入している。 角閃岩は暗緑色, 緻密の岩石で, 顕微鏡下では束状, 針状の陽閃石質の角閃石および少量の斜長石・磁鉄鉱などからなるが, 変質の程度が激しく原岩の認定はできない。 変質斑粝岩質岩石は緑色のやゝ片状の岩石で, 部分的に閃緑岩質となることもある。 圧砕構造が著しく, 鏡下でようやく原岩が判定できる程度である。 輝石はそのほとんどがヘスチングス石質の角閃石に変わり, さらにその一部は透角閃石に変わっている。 曹長石 ‒ 角閃石の細脈, 緑簾石などが見られる。 また, この岩帯の南部の長者森から白見山に亘る西側山腹に, 500 m 以上の層厚を示す点紋黒色粘板岩, 紅柱石空晶石菫青石ホルンフェルスが分布するほか, 新田・大仁田には厚さ 1 m 以内の含赤鉄鉱珪岩が見られる。 これらの粘板岩や珪岩などと, 上述の角閃岩・斑粝岩質岩石・閃緑岩質岩石との関係は明らかでなく, したがって緑色変成岩と古生層との関係はわからない。 たゞし顕微鏡下で, 明らかに 斑粝岩質ないし閃緑岩質の岩石が 圧砕変質されたと思われる岩石があることにより, 斑粝岩質および閃緑岩質岩石には, 外側弧状体列の一部に相当するものがあろうことは容易に想像されるが, 角閃岩を含めて緑色変成岩全体を考える時は, これを簡単に外側弧状体列に含めることはできない。
図幅地域南東隅, 六黒見金山南方に, 釜石鉱山東方の片羽山(遠野図幅)を中心として分布する 閃緑岩の一部が分布する。 暗緑色, 中粒の岩石であるが, やゝ斑状となることもある。 主として斜長石・角閃石からなるが, 時に少量の石英を含むこともある。 角閃石は結晶形を保ったまゝ緑色あるいは褐色の黒雲母に変わっており, 花崗閃緑岩迸入の影響を強く受けているものと思われる。 この岩体の東部には緑色玢岩質岩石が分布するが, この岩石は暗緑色で長石が斑晶状に散点するものであって, その一部に凝灰岩を伴なうのではないかと思われる点もあるが, 変質が著しく, 鏡下でも断定はできない。
遠野花崗閃緑岩の主体は中粒ないし粗粒の花崗閃緑岩である。 構成鉱物の容量比の測定値から, 互に漸移関係にあるのであるが, 第 1 表に示すような大略3つの型に分けることができる。
| A | B | C | |
| 石英 | 32.7 % | 23.6 % | 25.1 % |
| カリ長石 | 17.9 | 12.7 | 4.7 |
| 斜長石 | 34.3 | 42.7 | 51.5 |
| 角閃石 | 6.0 | 6.4 | 2.5 |
| 黒雲母 | 6.8 | 12.4 | 13.5 |
| その他 | 2.3 | 2.2 | 2.7 |
さらに石英 – 斜長石 – カリ長石の関係を見ると, 斜長石 35~65 %, 石英 25~40 %, カリ長石 5~2 5% で, 岩石はアダメロ岩から花崗閃緑岩を経て, 石英閃緑岩に移化する種々の岩石から構成されていることがわかる。 このほかに細粒の花崗閃緑岩もあり, これらの概略の分布は第 2 図のようになる。 なお, これらの代表的なものの化学分析の結果は, 第 2 表に示した。
| A | B | C | |
| SiO2 | 68.95 | 65.32 | 60.72 |
| Al2O3 | 15.77 | 16.21 | 17.16 |
| Fe2O3 | 1.50 | 1.87 | 2.54 |
| FeO | 1.28 | 2.85 | 3.70 |
| MgO | 1.31 | 2.09 | 3.22 |
| CaO | 3.57 | 4.53 | 6.06 |
| Na2O | 4.10 | 3.15 | 3.24 |
| K2O | 2.14 | 2.36 | 1.56 |
| H2O + | 0.55 | 0.53 | 0.69 |
| H2O - | 0.20 | 0.08 | 0.14 |
| TiO2 | 0.33 | 0.50 | 0.62 |
| P2O5 | 0.09 | 0.11 | 0.14 |
| MnO | 0.07 | 0.09 | 0.09 |
| Total | 99.86 | 99.69 | 99.88 |
| 技術部化学課 川野昌樹・山田貞子 分析 | |||
ただし、 第 1 表と第 2 表の「岩石試料の採集地(?)」は以下の通りである。
標式的の花崗閃緑岩は中粒ないし粗粒, 黒灰色で, 主として斜長石・石英・カリ長石・角閃石・黒雲母からなり, 副成分鉱物として燐灰石・ジルコン・磁鉄鉱・金紅石などを含む。 その代表的な鉱物容量比および化学分析値は, それぞれ第 1 表 B および第 2 表 B に示した通りである。
この岩体が古生層に接する所では, ① やゝ粒度が細かく, 多少の片理を帯び, 有色鉱物, ことに黒雲母が多くなり, 黒雲母石英閃緑岩質の岩石が見られるか, あるいは, ② 有色鉱物, ことに角閃石の量が多くなり, 石英閃緑岩質, 閃緑岩質の岩石が見られるのが普通である。 ① の場合は粘板岩などの珪礬質の岩石と接する場合で, この例は 一ツ石山附近・恩徳附近・白見山附近・厚楽附近・六黒見金山附近などである。 また, 同様の岩石が岩体の内部にも見られ, この例は 岩体南西部の松崎村天神附近 [ 以下の [注] 参照 ] ・忍峠附近, 北西部の猿ケ石川上流藤切沢・大黒森西腹, 中央部の耳切山附近一帯および土淵村西内北方などであって, これらも珪礬質岩石を捕獲したことによるものと思われる。 ② の場合は花崗閃緑岩が塩基性の岩石と接する場合と考えられ, この例は 岩体南東部の橋野川に沿って見られるほか(第 2 表 C), 附馬牛村荒川上流・大黒森北西方・土淵村界木峠附近・貞任山西麓・石仏山頂附近 などで見られる。 ことに橋野川に沿っては, 角閃石を主とする有色鉱物に富んだ球状の部分を多く含み, いわゆる球状花崗岩様のものが見られ, さらに上流の赤柴附近あるいは岩体北部のものの一部には, 原岩の斑粝岩質岩石あるいは輝緑岩質岩石が残存しているのが見られる。
以上の石英閃緑岩質の岩石とは逆に, 岩石が酸性となりアダメロ岩質となる岩石は, 岩体の西部のやゝ広い地帯一帯に見られる(第 2 表 A)。 この地域のもののうちで, アダメロ岩は有色鉱物のほとんどが自形, 長柱状の黒雲母のみからなる石英の多い粗粒の岩石 [ 以下の [注] 参照 ] であって, 黒雲母の大きさおよび長さはいずれも 1 cm に近いものがある。 このような岩石は, 附馬牛村上柳から欠ノ沢を経て和野・犬淵附近, および桑原附近, あるいは千刈畑附近などに分布している。 アダメロ岩 - アダメロ岩質花崗閃緑岩 - 花崗閃緑岩の関係は, 一般にそれぞれ漸移関係にあるように思われるが, 千刈畑附近では急激に移り変わり, この地帯一帯にアプライトの多いこと, 岩石が著しく粗粒となることなどから, 揮発成分が多く含まれていた地帯であることが考えられる。 なお, アプライトは第 1 図にその一部を示したが, 中滝から大出附近に最も多く見られる。 この附近は岩体中で小断層・節理の発達する地帯であって, アプライトに伴ない緑簾石・赤鉄鉱 5) などの細脈も発達する。 アプライトには白色の長石を主とするものと, 桃色の長石を主とするものとの2種類があり, 白色の長石は灰曹長石, 桃色のものは微斜長石とされている 5) 。
細粒の花崗閃緑岩は第 1 図に示したように, ほゞ円形の分布を示し, 周囲の花崗閃緑岩とは漸移関係にある。 この岩石の有色鉱物は特に粒度が小さく, 1 mm 以内の角閃石, 自形やゝ板状の黒雲母からなり, それらの量は標式的の花崗閃緑岩より増減が甚だしい。 このなかに捕獲岩と思われる岩石で, 岩質からはやゝ塩基性の花崗閃緑岩に属し, いわゆる門島花崗岩 6) に類似する石英閃緑岩質の岩石が見られる。
なお, 図幅地域北部の大仁田附近およびその東方の湯沢・道又附近に, 岩質上閃緑岩と称すべき岩石がいずれも小範囲に分布する。 この岩石は時に石英閃緑岩あるいは斑粝岩に移化するが, これは遠野花崗閃緑岩の一部と思われる。
遠野花崗閃緑岩体のほゞ中心部にやゝ広い範囲に亘って分布するものと, その東方に主として花崗閃緑岩, 一部は古生層中に岩脈として貫入しているもの, との2種の産状を示している。 前者は耳切山山頂を北限として, その南腹一帯に分布するもので, 3~5 mm 大の長石・両錐石英・角閃石, 1~2 mm 大の黒雲母を斑晶とする斑状構造を示す。 多斑晶質で灰緑色を呈し, やゝ節理の発達がみられるもの, 過石基質で, かつ斑晶が小さくなり黝色を示すものなど, 岩相の変化が著しい。 鏡下においては, 多斑晶質のものも過石基質のものも一般に新鮮で, 長石には正長石が比較的少ない。 時に黒雲母が緑簾石に変わっているものがあり, 角閃石のあるものが小結晶の集合体からなるということのほか, 石英が熔蝕されて丸味を帯びるなど, 普通の花崗斑岩と同様である。 この岩石と花崗閃緑岩との直接の関係は不明であるが, おそらく花崗閃緑岩中に迸入しているものと思われる。 しかし 例えば西方の猿ケ石川沿岸から耳切山へ向かい転石を追って行くと, 花崗閃緑岩は耳切山に近づくにしたがい粒度が小さくなり, 角閃石が増加し, さらに山頂近くで急激に黒雲母・角閃石が増加するようになり, 一部には C 軸の方向にやゝ伸びた黒雲母と, 1 cm 大の自形の角閃石とを含む特異の岩相が見られる事実がある。 また 猿ケ石川を隔てた南西方天ケ森の西方 2 km にも花崗閃緑岩質斑岩が見られ, 花崗閃緑岩は上記の耳切山の場合と同様の変化を示すのが見られる。 このような現象は, 花崗閃緑岩が他岩を包含する場合に見られる現象とよく似ている。
岩脈状のものは, 幅 1~10 数 m のものが不動滝附近で N70~80°W の方向に数條平行に, 花崗閃緑岩中に貫入しているほか, 土淵村鍋割・琴畑・恩徳などで見られる。 岩石は淡緑灰色で, 長石・黒雲母・角閃石と少量の石英とが斑晶として見られるが, その量は岩脈により増減し一定ではない。 一般に耳切山附近のものに較べて塩基性であり, 石英閃緑玢岩質の岩石である。 ことに恩徳北方で古生層中に貫入しているものは, 斑晶として黒雲母・石英を欠き閃緑玢岩質のものである。 岩脈の壁岩への影響は, 壁岩が花崗閃緑岩の場合には影響が認められないが, 恩徳附近のように古生層の場合には, 幅数 10 m の間に接触変質を与えている。
この岩石は図幅地域北東部で, 主として古生層の地帯に見られ, 河流の侵蝕などによる地形の低所によく露出する傾向がある。 小国村道又附近から立丸峠南方まで連続する1つの岩体をなし, その一部が処々に露出するに至ったものと思われ, きわめて複雑な輪郭をもって分布している。 外観は凝灰岩様の白色, 多孔質の感じを与え, 両錐形の石英と長石の斑晶の多いものと, 暗灰色, 緻密で石英と角閃石の斑晶の僅かに見られるものとの2種類がある。 顕微鏡下ではいずれも過石基質であるが, 前者は斑晶として石英・斜長石(曹長石), 少量の正長石があり, 完晶質の珪長質石基中に多量の磁鉄鉱と黒雲母, 少量のジルコンが認められる。 後者は斑晶として石英・斜長石・正長石のほか少量ではあるが, 反応縁をもった角閃石・透輝石の小結晶が少量認められ, 石基はやゝ微珪長質である。 第 3 表にこの2つの型の化学分析の結果を示す。
| SiO2 | Al2O3 | Fe2O3 | FeO | MgO | CaO | Na2O | K2O | H2O + | H2O - | TiO2 | P2O5 | MnO | Total | |
| A | 73.87 | 14.87 | 0.94 | 0.26 | 0.44 | 2.32 | 4.38 | 0.95 | 1.28 | 0.30 | 0.10 | 0.07 | 0.04 | 99.82 |
| B | 71.16 | 16.67 | 0.89 | 0.71 | 0.51 | 3.87 | 4.16 | 0.69 | 0.64 | 0.22 | 0.10 | 0.07 | 0.06 | 99.75 |
| 技術部化学課 川野・山田 分析 | ||||||||||||||
また, この岩石の一部には古生層・緑色変成岩・花崗閃緑岩などの角礫を含むほか, この岩石自体の角礫を多く含む迸入角礫岩がある。
上記の流紋岩と岩質的に類似した岩石が金沢村戸沢の道路上に, 幅数 m の岩脈として見られる。 この岩石は灰色で均質, 風化のやゝ進んだと思われる石基中に石英が散点している。 この道路の数 10 m 下の河流に沿って同質の岩石がやゝ広く分布し, その一部はかつて砥石として採石されたということである。 この例でもわかる通り, この地帯のこの種の岩石は深部に行くにしたがい, 急激に広く発達する傾向があるようである。
このほか岩脈としては, 長者森山頂に露出する変質斑粝岩, その南方白見山南麓のスペッサルタイト岩に近い角閃玢岩, 戸沢東方で 周囲の古生層の走向に平行して露出する変輝緑岩ないし変質斑粝岩, 図幅地域南東隅の角閃橄欖岩, その他第 1 図に示したように 花崗閃緑岩中に主としてみられる幅 1~数 m のアプライトおよびペグマタイト, 古生層中に主として見られる石英の小さな脈などがある。
第四系としては猿ケ石川流域の段丘堆積物および冲積層がそのおもなものであって, 前者は上柳附近を中心として時に厚さ数 10 m に及んで処々に発達している。 猿ケ石川以外の段丘堆積物には地域南東部橋野川に沿うもの, 地域北部で小国川上流に見られるものなどがあるだけで, いずれも小規模のものである。 また, 地域北西部の大野平および松崎村天ケ森南麓には, 段丘堆積物を覆って崖錐が扇状地状の地形をつくって分布し, また松崎村妻ノ神には扇状地堆積物が段丘を覆って分布する。 なお, 諸河川流域・谷間などの低地に冲積層が分布している。
この図幅地域内には稼行中の鉱山はないが, かつて, 盛名を馳せたものに六黒見金山があり, そのほかにも稼行されたものとして, 長者森鉱山・恩徳金山・北竜鉱山などを挙げることができる。 北竜鉱山の鉱床が花崗閃緑岩中に胚胎されているのを除いては, これらの鉱床はいずれも 遠野花崗閃緑岩の周辺の古生層中に賦存しているものである。
貞任山附近その他の花崗閃緑岩の深層風化の進んだ地帯には, しぼしば鍰 [ slag ] が散在し, 水流を導いたと思われる溝跡も見られ, かつて花崗閃緑岩中の磁鉄鉱を集積, 製錬したものと思われる。
深層風化地帯(大略の範囲は第2図に示した)は 昭和 23 年(1948)のアイオン颱風による被害, あるいは他の花崗岩地帯の颱風による被害状況によっても知られる通り, 一たび水害をうけると急激に侵蝕が進み, 風化分解している土砂が流下して被害を著しく増大させるので, 上述の貞任山附近に水源を発する諸河川, および一ツ石山南方の放牧地帯を上流にもつ荒川などは, 災害防止上特に注意されねばならない。 ことに荒川上流は深層風化地帯であるうえに, 放牧地帯になっているなどの悪條件が重なり, すでに花崗岩荒廃地の様相を呈しつゝあるので, 頽砂地化防止のためなんらかの施策が望まれる。
六黒見金山は図幅地域南東部, 栗橋村橋野にあり, 坑口から橋野川に沿う新県道に通ずる自動車道路があり, 交通は便利である。
この金山は古くから稼行されたようであるが 7) , 日本鉱業株式会社によって昭和 10 年から本格的に採掘が開始され, 昭和 18 年金山整備により休山するまでに, 精鉱 85,000 t(Au 8.0 g/t)を産出した。
鉱床は閃緑岩および玢岩と石灰岩との接触部附近に胚胎され, 磁鉄鉱・磁硫鉄鉱・硫砒鉄鉱を主とし, 含金黄鉄鉱および黄銅鉱を伴なうものである。 鉱体には好鋪・大鍎・沢鋪・卯酉の4鉱体があり, 前2者は N ‒ S の走向で磁鉄鉱が多く, 後2者は E ‒ W の走向で磁硫鉄鉱が多いといわれている。 坑内ではしばしば石灰岩などの古生層が閃緑岩あるいは玢岩中に残存し, また接触鉱物として, 透輝石・灰鉄輝石・柘榴石・緑簾石などが見られたという。
長者森鉱山は地域北東部に位置し, 長者森南方 1 km の山腹に坑口を設けている。 遠野・宮古を通ずる県道上の新田まで約 2 km の間は, 起伏に富む放牧地帯であって, この間自動車道路が新設された。
この鉱山は長者森あるいは地方の呼称である長者屋敷という名の示すように, きわめて古い時代に金山として稼行されたものと思われ, 附近には旧坑や小丘状に積まれた淘汰滓が処々に残存して, その名残りをとゞめている。 近年は, 昭和 7, 8 年頃から数年間探鉱が行われ, さらに第2次大戦時代には, ニッケルを含有することが注目され, 鐘ケ淵実業株式会社などの手によって, 事務所・社宅などが設備されたが, 終戦と同時に休山した。
鉱床は粘板岩・緑色変成岩・変質斑粝岩の交会する所に胚胎され, 不規則の脈状をなした接触変質鉱床で, 含金ニッケル磁硫鉄鉱, 時に黄鉄鉱・黄銅鉱・閃亜鉛鉱・方鉛鉱などを鉱染状に含むものであって, ニッケルの含有量は 0.2~0.5 %, 金・銀はしばしば高品位のものが存在したといわれる。
附馬牛村上柳南方約 3 km, 天ケ森の北面の山腹にあり, 坑口まで専用道路が通じている。 発見の時代は不明であるが, 古く天ケ森金山として探鉱されたことがあるという。 その後第2次大戦になってモリブデンが注目され, 終戦直前には, 選鉱試験のため北頭鉱山へ約 10 t の鉱石が送られたが, 終戦と同時に休山となった。 昭和 26 年住友金属鉱山株式会社の手に移り, 8 月から本格的に探鉱が開始され, 27 年 10 月には新たに重石鉱床が発見されるなどのことがあったが, 現在は休山中である。
鉱山周辺はすべてアダメロ岩質の花崗閃緑岩からなり, 鉱床はこの花崗閃緑岩に貫入している含水鉛石英脈であって, 輝水鉛鉱のほか黄鉄鉱・黄銅鉱, 時に鉄満重石 [ 鉄マンガン重石 ] を随伴している。 鉱脈の数は大小数多くあるが, 主要なものは本𨫤・下盤𨫤・3号坑𨫤・千年𨫤の4條であり, これらは N 60°E の方向に走り, 70°内外北に傾斜するのを一般とする。
輝水鉛鉱は石英の縞状の割れ目に沿って薄く塗布されたように賦存し, 黄鉄鉱・黄銅鉱は石英脈中に結晶あるいは微粒の集合体をなし, 鉄満重石は石英脈中に細脈をなすが局部的である。 品位はモリブデン・銅ともに 1 % 以下である。
土淵村恩徳の北東 2 km, 金掘沢左岸にあり, 坑口直下まで県道が通じている。 発見の時代は不明であるが, 古くから稼行されたものらしく, 周囲には旧坑が多く見られる。 第1次大戦当時, 水車を利用する淘汰法が行われ, さらに周辺の砂金鉱も採取されたようである。
この鉱山の附近の地質は粘板岩と, これを貫ぬく花崗閃緑岩質斑岩とからなり, 鉱床は粘板岩中の含金石英脈である。 主鉱床は幅 1 m 内外(坑内では約 3 m といわれる)の白色, 不透明の石脈であるが, 割目に富み, 酸化により淡褐色を呈するもので, 盤際には数 cm の粘土層を伴なっているが, 金は石英の部分に多いようである。 なお, 露頭部の分析結果は Au 61.3 g/t, Ag 3 g/t である(地質調査所分析)。
EXPLANATORY TEXT OF THE GEOLOGICAL MAP OF JAPAN Scale 1 : 50,000
Akita, No. 34
By EIJIRO OWA (Written in 1955)
The area of this sheet map is situated in the central part of the Kitakami mountainland, and belongs to the so-called Median tectonic zone of the Kitakami mountainland. In this area, granitic rocks are extensively exposed, and Paleozoic sediments, green metamorphic rocks, diorite, rhyolite and others occur partially.
The Paleozoic system is divided lithologically into the "Phyllite belt" composed of phyllite, chert and schalstein, and "Clayslate belt" comprising clayslate, sandstone and limestone, and they are non-fossiliferous. The Phyllite belt may belong to the north type Paleozoic system of the Kitakami mountainland, and the Clayslate belt to the south type. The fundamental structure of the Paleozoic formations in the Kitakami mountainland is a kind of arcuate structure, namely the strike of the strata undulates from NNW in the north to NNE in the south, and the central part of the arcuate structure is seen in the present field. This structure seems to have the influenced shapes of later intrusive bodies of this area.
The green metamorphic rocks comprise amphibolite, crushed gabbroic or dioritic rocks and serpentine, and occur between the Phyllite belt and Clayslate belt in a zone.
In the igneous rocks of this area, the Tōno granodiorite, probably intruded in the Mesozoic age, is the most extensive. The other igneous rocks are diorite and basic dyke rocks intruded into the Paleozoic formations before the intrusion of the Tōno granodiorite, and granodioritic porphyry and rhyolite of later age.
Tōno granodiorite is a kind of the most common type of granodiorite in Japan, contains few alkali-feldspars. It is mainly medium- to coarse-grained, and heterogeneous. The quartz dioritic part in the eastern portion is noticed by the inclusions of basic and ovoidal xenoliths, while adamellitic part in the western portion is noticed by the intrusions of many aplite veins. Fine-grained type of granodiorite is also distributed near the central portion, and adamellite, characterized by the biotite crystals which are elongated in the direction of C axis, is frequently found in the eastern portion. These are generally intruded as a mass almost parallel to the bedding plane of the Paleozoic, though sometimes cross the arcuate structure, especially in the eastern part of the granodiorite.
Rhyolite intruded into the green metamorphic rocks and the Clayslate belt, crops out in irregular shapes at low places such as river-beds. It is divided into two types : one is compact and homogeneous, dark grey in color and have small quartz and hornblende as phenocrysts ; the other is very similar to white tuff and carries more phenocrysts of bipyramidal quartz and plagioclase than the former. Rhyolite includes xenoliths of green metamorphic rocks, clayslate and granodiorite at the margin.
Some ore deposits of small scale are found in the Paleozoic formations and the granodioritic rocks, but they are not in working. The deposits are contact deposits containing gold, nickel and copper etc., and quartz veins contain gold and molybdenite.
Rokuromi mine is situated at the southeastern part of the area and is found in the limestone of the Paleozoic formation near the contact of diorite and porphyrite. The ores are of complex mineral compositions in which principal constituents are magnetite, pyrrhotite, arsenopyrite, pyrite and chalcopyrite. Gold is included in pyrite and chalcopyrite.
The ore deposits of Chōjamori mine situated at Oguni village are vein-like contact deposits. The principal ore is pyrrhotite containing gold and nickel, but it is poor in nickel content.
Quartz veins having many laminas of molybdenite are found in the granodiorite of the southwestern part of the area, and some other veins occurring in the Paleozoic formations near the central part of the area contain 60 g/t in gold.
昭和 31 年 3 月 25 日印刷 昭和 31 年 3 月 31 日発行 著作権所有 工業技術院 地質調査所