03029_1955
5万分の1地質図幅説明書
(旭川 第29号)
通商産業技官 松野久也
雇 山口昇一
地質調査所
昭和 30 年
目次 I. 地形 II. 地質 II.1 概説 II.2 新第三系 II.2.1 遠別層 II.3 第四系 II.3.1 更新統 II.3.1.1 海岸段丘堆積層 II.3.1.2 河岸段丘堆積層 II.3.2 現世統 - 冲積層 II.4 地質構造 III. 応用地質 文献 Abstract
1 : 50,000 地質図幅説明書
(旭川 第29号)
本地質図幅の野外調査は, 昭和 28 年 5 月末から 6 月初めにかけて, 延べ約 20 日にわたって行った。 動物化石の鑑定および第三系の時代については, 東北大学理学部地質学古生物学教室の小高民夫学士の協力を得た
本図幅の地域は, 北海道の北西部にあって日本海に臨む。 海岸線は北北東 - 南南西に走って, 極めて屈曲に乏しく単調であり, これに沿って2段の海岸段丘がよく発達している。 海岸段丘の背後にはさらに一段と高い, かなり開析の進んだ平坦面が存在し, この図幅には南東隅にその前面が僅かに見られる。 この最も高い平坦面は, 図幅内において, 海抜 70~80 m の高さを有し, 南にある苫前図幅 1) における中部丘陵地の面の延長であり, 海蝕準平原面, あるいは旧海蝕台地面と考えられる。
2段の海岸段丘のうち高位のものは, 苫前図幅においては羽幌海岸段丘と命名されているものであって, 本段丘面の高度は, 図幅の南端では海抜 65 m, 中央の築別台では 50 m 内外, 北端では 30~35 m であり, いまほぼ海岸線に平行な2点, すなわち羽幌町南方の台地上の三角点および 築別高台の中心部の独立標高点を基準にとると, この間で 3×10 -3 の傾斜を示す。 また本段丘面は内陸部に向っても僅かに傾斜する傾向がある。 段丘面の幅は築別高台において最も広く, 2,300 m に及んでいる。
低位の段丘は, 苫前図幅において, 苫前海岸段丘と命名されているものの連続である。 本段丘面もほぼ前者と同様に南から北へ低下する傾向を有し, 南部において海抜 25 m 内外, 築別川川口南方において 20 m 内外の高さを有する。 段丘の前面は現在の海蝕 [ 以下の [注] 参照 ] によって削られ, 段丘面の幅は図幅南端において 1,200 m 内外であって, 北方に徐々に幅を減少し, 築別川川口北方では, 羽幌海岸段丘の前面が直接海に臨み, ほとんど垂直に近い海蝕崖を形成している。
本図幅地域内における主要水系は羽幌川および築別川であって, 北西方向にほぼ平行して日本海に流入している。 これらはいずれも図幅地域内において, 1,500 m 内外の幅にわたって海蝕台地および海岸段丘を開析し, その河谷中を蛇行している。 これらの水系の沿岸には河岸段丘が形成されている。 河岸段丘は3段あって, 最下位のものは羽幌川沿岸では高度 15 m 以下, 築別川沿岸では 20 m 以下であり, これらは互いに離れて分布するが, 高さと開析程度が似ているので同位のものとみなしうる。 中位および高位のものは築別川においてのみ認められ, 低位段丘に較べると開析が進んでいて, 地形図だけでは段丘面が明らかではないが, 段丘を構成する砂礫層の分布から認識しうる。 中位段丘は高さほぼ 20~25 m であって, 苫前海岸段丘と直接連続するところはなく, かつ高さに幾分の差がないでもないが, しかしほぼ同位にあると推定される。 高位段丘は約 30 m 内外の高さを示して苫前海岸段丘より一段高く, 築別高台の平坦面すなわち羽幌海岸段丘より一段低く位置して, これを切截する面を形成している。
羽幌川沿岸においても, 上述の中位および高位の河岸段丘に相当する面の存在が期待され, 例えば羽幌町南方の台地(羽幌海岸段丘面)の東縁に沿って, 台地面より一段低い平坦面が存在するようであるが, この点未だ確かでない。
本図幅地域内の地質は, 堆積岩のみによって構成せられ, 新第三系の遠別層, 第四系に属する海岸・河岸の段丘堆積層, および冲積層とである。 これらの細分および関係を模式的に表示すると第1図の通りである。
本図幅内に分布する遠別層は, 苫前図幅内において丸山向斜の軸部に分布する遠別層の上部に当り, 新第三系追分階に属する。 主として青灰色無層理の凝灰質ないし珪藻土質の泥岩からなり, 上部は次第に砂質となり遂には黄褐色の軟弱な砂岩 - 遠別層上部として分帯したもの - となる。 本層は海棲動物化石を含有する。
第四系は, 後追分期, さらに後期の後滝川期の造山運動によって転位した 遠別層の侵蝕面上に堆積した海岸・河岸の段丘堆積層および冲積層からなる。
第四紀における地盤の運動は, 隆起量が南に多く北部に少ない数次にわたる傾動運動であり, その結果, 海蝕準平原面および海岸段丘の平坦面は, 極めて緩い傾斜をもって北東方に高度を減じている。
遠別層は岩相から上部および下部に2分される。
下部 : 遠別層下部は主として無層理青灰色の凝灰質ないし珪藻土質の泥岩からなり, 上部にいくにしたがって淤泥質となり, さらに青灰色の凝灰質中粒ないし細粒砂岩となる。 泥岩はしばしば白色の径数 mm から数 cm の浮石片を含み, 全く層理を示さず, 風化面に沿って不規則に破砕し, 乾燥すれば白色の極めて軽い細片となって崩壊し, いたるところに白色の崖となって露出する。
下ノ滝附近には泥岩中に厚さ 10~15 cm の凝灰岩層が1枚介在し, また塊状の泥岩中に径数 10 cm から数 m におよぶ泥灰団球が配列し, これらにより遠別層下部の走向・傾斜をかろうじて推量することができる。
本層は一般に海棲動物化石および珪藻の遺殻を多数含有する。
下部の泥岩中には次の化石が散在する。
築別川川口から北方へ図幅外の茂築別川川口に至る約 3 km の間に亘って, 高さ 30 m 内外の海崖の下部に露出する遠別層下部の上部, すなわち砂岩部中にはかなり顕著な3つの化石帯が認められる。
すなわち, 泥岩から砂岩に移りかわる辺より
を産し, Acila divaricata (HINDS) が密集帯をなしている。 この化石帯は遠別層下部の上限から数 10 m 下位にあって, 稚内油田における声問頁岩層の Turritella帯 2) に相当するものであろう。
上述の Acila divaricata (HINDS) の密集帯から僅かに上位の砂岩中からは
が散点的に産出する。
また, 遠別層下部の上限から約 3 m 下位に厚さ 50 cm 内外の砂岩があって, Pecten (Fortipecten) takahashii YOKOYAMA をおびたゞしく含む化石帯をなしている。 本化石帯より亜炭化した木片とともに次の化石を産出する。
以上のうち, Turritella saishuensjs YOKOYAMA は 北陸・信越および東北裏日本の鮮新世初期の地層中に産すること 3) , また Pecten (Fortipecten) tahahashii YOKOYAMA は 東北表日本の鮮新世の仙台層群の下部竜ノ口層および同層準の地層, 樺太および北海道各地の鮮新統から産出する 4), 5), 6) 。 したがって遠別層下部の時代は鮮新世と考えられる。
さらに隣接地方との対比を試みると, 遠別層下部は苫前図幅説明書に述べられているように, 初山別層・稚内層あるいは 稚内硬質頁岩層等の硬質頁岩で代表される 稚内階の地層に対比される小川夾亜炭層の上位にあって, これから整合的に移り変ること, 特徴のある凝灰質ないし珪藻土質の泥岩からなること, および産出化石からみて, 天塩北部から北見地方に亘る油田地域の上部を構成する声問層 7) あるいは声問頁岩層 8) に対比される。
上部 : 遠別層上部は, 黄褐色軟弱な細粒砂岩からなり同層下部を整合に覆う。 下部と上部との境界は, 青灰色の砂岩と黄褐色の砂岩との接するところにおく。 また遠別層上部は羽幌海岸段丘堆積層によって不整合に覆われ, この図幅内では最下部に当る厚さ 20 m の部分しかみられない。 砂岩は細粒均質軟弱であって, 多少凝灰質の部分があり, 保存不完全な海棲動物化石および炭化した植物片を含有する。
遠別層上部は, この図幅内では極めて限られた部分が分布するだけであるので, その対比などについて正確なことはいい得ない。 しかし, 渡辺久吉 9) は本図幅の北方の遠別町附近の調査によって, 「声問層は上部に次第に砂質となるか, 或は処によりて厚さ 2~3 m の頁岩中に 同様の厚さの細粒砂岩層を両三度交互するに至りて, その上は勇知砂層に推移す」と記載している。 このことと岩質からみて, 遠別層上部は勇知砂層あるいは勇知砂岩層の基底部に当るものと考えられる。
従来 Pecten (Fortipecten) takahashii YOKOYAMA の産出は, 北海道においては滝川階の地層に限られていることから, 遠別層下部の上部から上を滝川階とすべきか, あるいは Pecten (Fortipecten) takahashii YOKOYAMA の出現が追分階までさかのぼるかは, いまのところ結論し得ない。
更新統は海岸段丘および河岸段丘をなして分布する。 本統については地形の項で記述したことも参照されたい。
海岸線に沿う2段の海岸段丘面は, それぞれ羽幌海岸段丘堆積層および苫前海岸段丘堆積層の堆積面である。
羽幌海岸段丘堆積層 : 本堆積層は, 羽幌町市街地南方においては, 人頭大あるいはそれ以下の基底礫をもって下位の遠別層の泥岩に接し, 主として細粒の砂からなる。 また本層は図幅のほぼ中央部の築別高台にもっとも良く発達し, 層厚 15~23 m におよび築別高台の北部では遠別層の砂質泥岩に, 図幅北端においては遠別層上部に接する。 これらの部分では基底部の厚さ 4~7 m は, 指頭大以下のよく水磨された礫からなる厚さ 10~30 cm の層と, 黄灰色ないし黄褐色の砂からなる厚さ 10~50 cm の層との互層からなる。 その上位は黄褐色の細粒の砂の厚層からなる。 図幅の北端附近において, 基底より 3~4 m 上位に厚さ 110 cm の泥炭層が介在し, その下盤には厚さ 30~40 cm の淤泥があって漂木片を含有している。
苫前海岸段丘堆積層 : 本堆積層は, 礫まじりの砂および細粒砂からなる。 礫は比較的基底部に多く, 場所によっては厚さ数 10 cm の基底礫層となる。 基底礫層中には遠別層の泥岩の礫を含有している。 また羽幌町中ノ滝附近では, 厚さ最大 280 cm の泥炭層がレンズ状に介在する。 泥炭層の下盤および上盤には, 火山灰に富みかつ炭化物の多い粘土がある。 泥炭は草本性の植物からなり, Menyanthes trifoliata LINNÉ の種子をおびたゞしく含有している。
羽幌および苫前海岸段丘堆積層は, その段丘面の高さおよびその平坦面が極めて良好に保存されていることなどから, それらの時代は更新世後期であろう。
羽幌川および築別川に沿って発達している河岸段丘は, 砂礫からなる軟弱な堆積物によって構成せられており, 低位・中位・高位の3段丘堆積層が認められる(地形の項参照)。
海岸段丘と河岸段丘とを通じて, 段丘面の高さおよび開析の程度からこれらを時代的に関係づけると, 羽幌海岸段丘堆積層がもっとも古く, 次いで高位河岸段丘堆積層・苫前海岸段丘堆積層と 中位河岸段丘堆積層および低位河岸段丘堆積層の順となる。 したがって中位および高位の河岸段丘堆積層は, 海岸段丘堆積層と同じく更新世後期とし, 低位河岸段丘堆積層もさしあたり更新世後期とする。
冲積層には 諸河川の現河床および氾濫原を形成する 砂・礫および粘土からなる未固結の堆積物, 現在の海浜の砂・礫等が含まれる。
遠別層は塊状, 無層理であって, その構造は詳らかでない。 しかし図幅区域の周辺の状況, 地層中に介在する凝灰岩層および泥灰団球の配列状態等から, かろうじてその構造の大略を把握することができる。 すなわち, 海岸線に沿って図幅区域の南端オコツナイから羽幌町附近にかけて, 遠別層下部は NW - SE の走向をもって NE 方向に僅かに傾斜し, 図幅区域の北端ではほぼ N - S の走向で西に傾斜している。 さらに南に接する苫前図幅内においてみられる丸山向斜の軸は N - Sの方向を有し, その北への延長が築別川川口に到るものと想像される。 以上のことから本図幅区域内における遠別層は, 北方ないし北西方に開いた向斜の軸部を構成するものと推定される。
上述の褶曲構造によって転位した遠別層を覆って, 2段の海岸段丘堆積層が存在するが, これらは後の傾動運動により緩やかな傾斜をもってNE方向に傾いている。
海岸段丘堆積層・河岸段丘堆積層および冲積層の砂礫中に, 砂金および砂白金が存在することが古くから知られていて, 椀掛けによって容易にこれを検出することができる。 羽幌町南方の台地および築別高台で, 羽幌海岸段丘堆積層の砂礫層を対象として試掘した跡が処々に見られる。 しかし現在稼行あるいは試掘しているところは全くない。 図幅外であるが海岸沿いの北方約 8 km にはかつて三浦金山 11) があって, 産状を同じくする砂金および砂白金を稼行したことがある。
EXPLANATORY TEXT OF THE GEOLOGICAL MAP OF JAPAN Scale 1 : 50,000
Asahigawa, No. 29
By KYUYA MATUSNO & SYOICHI YAMAGUCHI (Written in 1954)
The mapped area is situated along the coast of the Japan Sea in the northwestern part of Hokkaidō.
The terraces which are originated from the multi-cyclic elevation of the land are developed largely in the area. Along the simple coastal line with NNE-SSW trend are seen three steps of flat surface, which incline toward the northeast. The highest surface is seen in the southeastern corner of the area and is about 70-80 m above the sea level. It is considered to be originated from a marine dissected. peneplain. The lower two are coastal terraces, named the Haboro and Tomamaé respectively.
The higher Haboro coastal terrace cuts the western margin of the above mentioned marine dissected peneplain. Resulting from the tilting of the land, it decreases in altitude from south to north, ranging from about 65 m to about 30-35 m above the sea level. The Tomamaé coastal terrace extends along the coastal line and cuts the western margin of the Haboro coastal terrace. It also decreases in height from south to north, measuring from about 30 m to about 20 m above the sea level.
The main rivers Haboro-gawa and Chikubetsu-gawa flow in broad valleys which cut through the marine dissected peneplain and the coastal terraces. In the valleys, river terraces about 15-20, 20-25 and 30 m high above the sea level are developed, though higher two are seen only along the Chikubetsu-gawa.
The whole area consists of the Neogene Tertiary and Quaternary sediments. Their stratigraphical relations are given as follows.
| Quaternary | Recent | Alluvial deposits | |
| Pleistocene | Lower river terrace deposits | ||
| Tomamae coastal terrace and middle river terrace deposits | |||
| Higher river terrace deposits | |||
| Haboro coastal terrace deposits | |||
| Tertiary | Pliocene | Embetsu formation | Upper part |
| Lower part | |||
The Embetsu formation is divided lithologically into two parts. The base of the formation can not be seen in the area.
The lower part consists mostly of massive, bluish gray, tuffaceous and diatomaceous mudstone intercalating a thin layer of white tuff at Shimonotaki and containing white pumice fragments and calcareous nodules 1 or 2 m in maximum diameter. In the upper portion of this part there is massive, bluish gray, medium- or fine-grained sandstone which gradually graded from the lower mudstone.
Marine molluscs, whale bone, and wood fragments are contained especially and abundantly in the upper sandy or sand-stone facies (pages 4 and 5, in Japanese text). Amongst them, Pecten (Fortipecten) takahashii YOKOYAMA from the fossil zone 3 m from the top, and Turritella saishuensis YOKOYAMA from the another zone rich in Acila divaricata (HINDS) several tens meters deeper, are particularly valuable for correlations.
The formation is assigned to Pliocene in age and is correlative to the Koitoi formation in the northern Teshio and Kitami provinces, Hokkaidō.
The upper part is exposed at the wave cut cliff on the sea-shore north of the mouth of the Chikubetsu-gawa, and consists of yellowish brown soft sandstone, 20 m in thickness. It covers conformably the lower part of the Embetsu formation. Upon its eroded surface rests Quaternary Haboro coastal terrace gravel.
The upper part of the Embetsu formation, although the whole aspect can not be seen in this mapped area, may be correlated stratigraphically and lithologically to the Yūchi formation in the northern Teshio and Kitami Provinces, and is also considered to be Pliocence in age.
Haboro coastal terrace deposits : The deposits consist mostly of fine-grained sand, of which lowermost 4 or 7 m is alternated by granular-sized gravel. Locally, it is intercalated with seams of peat attaining a maximum thickness of 110 cm.
Tomamae coastal terrace deposits : The deposits are built up of fine-grained loose sand and gravely sand, intercalating gravel bed at the base. In the southern part of the area, the deposits intercalate peat as a lenticular seam, which bears, at the top and the base, black-colored clay containing abundant volcanic ash. From this peat seam, seeds of Menyanthes trifoliata LINNÉ were collected.
River terrace deposits : The deposits are made up of unconsolidated gravel, sand and clay.
Judging from the elevations above the sea level these river and coastal terrace deposits are considered to be of Pleistocene age : their chronological relations are already shown. The Tomamaé coastal terrace and the middle river terrace deposits are stratigraphically equivalent.
Alluvium : This is of valley-filled deposits along the streams and of coastal deposits along the Japan Sea.
The structure of the Embetsu formation is not directly known within the area mapped because of the massiveness of the rocks, but is roughly inferable from the intercalated thin layer of tuff and arrangement of nodules in the rocks. This formation occured at the neighbourhood of Okotsunai strikes in a north-westerly direction and dips to the northeast, and that occurred in the east strikes about N-S and dips to the west, these features imply a presence of synclinal structure with the axis of N-S trend in the east of Haboro town. The folding is caused by post-Oiwake orogeny.
The Quaternary deposits rest on the eroded surface of the folded Embetsu formation and have been slightly tilted.
Placer gold and platinum are contained in the gravel and sand of the coastal terraces, the river terraces and the alluvium, but are not economically important.
昭和 30 年 1 月 20 日印刷 昭和 30 年 1 月 25 日発行 著作権所有 工業技術院 地質調査所