03008_1965

5万分の1地質図幅説明書

抜海 ばっかい

(旭川 第 8 号)

北海道立地下資源調査所
技術史員 三谷勝利
嘱託 魚住悟
嘱託 藤江力

北海道開発庁

昭和 40 年 3 月


この調査は, 北海道総合開発の一環である, 地下資源開発のための基本調査として, 北海道に調査を委託し, 道立地下資源調査所において, 実施したものである。


目次

はしがき
I. 位置および交通
II. 地形
III. 地質概説
IV. 新第三紀層
IV.1 声問層
IV.2 勇知層
IV.3 更別層
V. 第四紀層
V.1 兜沼層
V.2 段丘堆積物
V.3 砂丘
V.4 冲積堆積物
VI. 地質構造
VII. 応用地質
参考文献

Résumé (in English)

5万分の1地質図幅説明書

抜海 ばっかい

(旭川 第 8 号)


はしがき

この図幅説明書は, 昭和 37 年 8 月に, 延 45 日間の野外調査をおこなった結果を取りまとめたものである。 野外調査に当たっては, 三谷が南部地域を, 魚住と藤江が北部地域を, それぞれ分担しておこなった。 そのほか, 第四紀の地層について, 北海道大学理学部の湊正雄, 北海道開発局の北川芳男の両氏にご助言をうけた。 また, 原野内の泥炭地については, 北海道立農業試験場の調査資料 5) を参考とした。

この図幅地域は, いわゆる天北油田地帯の一隅を占めており, 地域内にも, 勇知 ゆうち 背斜と 夕来 ゆうくる 背斜と名付けられた油田構造が発達していて, 石油および構造性天然ガスの賦存地域として, 注目されているところである。

また, この調査で, 第四紀中部洪積世の地層が地域内から隣接地域にわたって, 広く発達していることが, 新たに見出された。

I. 位置および交通

この図幅のしめる位置は, 北緯 45°10'~45°20', 東経 141°30'~141°45' の範囲である。

行政上では, その北半部から南西部海岸にかけた地域は稚内市に, 南東部地域は豊富町に, それぞれ属している。

交通は, 地域内の東隅を南北に横切って, 国道 40 号線が通じている。 また, 抜海, 勇知, 兜沼 かぶとぬま , 芦川の各市街を通って, 国鉄宗谷本線が走っている。

このほか, 海岸や主要河川にそって, また, 分散した部落を結んで, 多くの道路が開さくされている。

第 1 図 兜沼周辺地域の地形。 手前の丘は, 兜沼層の丘陵性台地。 むこう側の低地の周辺部にも, これと同じような台地がみられる。

II. 地形

この図幅地域は, 大きくみると, つぎの四つの地形区に区分できる。

  1. 標高 10 m 以下の湿地性原野, および, 主要河川流域の冲積氾濫原をふくむ地形区
  2. 主要河川および原野の周縁部にできた平坦台地, および, 低い丘陵性台地などの地形区
  3. 海岸付近の砂丘地形区
  4. その他の山地形区

これらの地形区は, それを構成する地質状態をよく反映している。 すなわち,

a 地形区 は, 冲積層の発達した地域であって, とくに, 河川の中・下流域では, 広い原野を形成し, 厚い泥炭層を埋積している。

b 地形区 は, 冲積面からの比高が, 20 m 前後までのところに形成された台地である。 この台地の多くは, 新第三紀層および 第四紀中部洪積世の地層が平坦化作用をうけた「ローリングヒル」であって, 台地の末端は, 斜面をつくっている。 なお, 海岸地域のクトネベツ川流域, およびその他の河川流域の一部などには, 段丘堆積物の発達する平坦台地がみとめられる。

c の地形区 は, 海岸砂丘から構成された, 標高 5~20 m までの砂丘地形である。 この地域の砂丘は, 夕来 ゆうくる 付近を境として, その北部と南部とで, 発達状態がいちじるしくちがっている。

北部地域では, 海岸からほぼ 500 m 前後の範囲内で海岸線にそって, 帯状に延びた数列の砂丘が発達しているのに対して, 南部地域では, 海岸から, 2,000~2,500 m の内陸部にまで, 砂丘が広がっている。 また, その形態も, 海岸に近い数列は, 帯状に連続して発達している。 しかし, 内陸部では,いちじるしい破壊をうけて, 数多くの砂山に分断されており, その方向性も判然としないような状態に, 変貌している。

これらの砂丘列や砂山の間には, 窪地や湿地, ときには沼などが形成されている。

d 地形区 は, いわゆる山地であって, 新第三紀層および第四紀の 兜沼 かぶとぬま 層から構成されている。

この図幅地域は, 最高標高点が 135 m であり, 全般的には, 80 m 前後以下の低い起伏地形をなしている。

また, この地形区内では, 基盤地層の構成岩相によって, 地形状態がかなりちがっている。 すなわち, 声問 こえとい 層の発達する地域では, 風化しやすい泥質岩のために, 曲線的な地形をつくっている。 一方, 砂質岩や礫質岩から構成された 勇知 ゆうち 層や 更別 さらべつ 層の発達する地域では, 鋭角的な山形をなし, また, 起伏の周期が細かく, V 字谷をつくっていることが多い。

さらに, 兜沼層の分布地域では, 構成岩相が軟弱であり, かつ, 地層は, ほとんど水平である。 このために, 起伏の少ない, 平坦地形を形成し, 沢は U 字谷になっているものが多い。

III. 地質概説

この図幅地域に分布する地層は, 天北地域の一般累重層序 3) の上半部すなわち, 声問層から上位の新第三紀層, および第四紀層であって, その層序は, 第 1 表のようである。

第 1 表 地質層序表

時代 地質層序 岩質および岩相 その他
第四紀 沖積世 沖積堆積物 砂利・砂・粘土・泥炭・火山灰
洪積世 段丘堆積物 礫・砂・粘土
兜沼層 礫・砂・粘土・軽石・火山灰 地変
新第三紀 鮮新世~中新世 更別層 上部層 砂岩・泥岩・亜炭・凝灰岩
下部層 礫岩・砂質礫岩
勇知層 砂岩 海棲介化石
声問層 泥岩

分布状態を概観すると, 北半部の地域には, 新第三紀層が, 南西部では, 第四紀洪積世の地層が, 南東部は, 広い原野をつくって, 泥炭を主とした冲積層が, それぞれ広域を占めて露出している。

新第三紀層は, 下部は, おもに泥質岩相から構成された海成層であるが, 上位にむかうにしたがって, 岩相はしだいに粗粒となり, 最上部では, 亜炭層を介在した陸成層にかわる累積状態をもっている。 それぞれの地層間は, いずれも, 整合的に累重している。

第四紀洪積世の兜沼層は, この図幅で新たに命名した地層であって, おもに, 砂礫層と砂層から構成された陸成堆積層である。 この地層は, その堆積および分布の状態からみて, 中期洪積世時期の地層と考えられる。

IV. 新第三紀層

新第三紀層は, 構成岩相のちがいから, 下位より, 声問層, 勇知層, 更別層の三つの地層に区分される。

IV.1 声問 こえとい

模式地 : サラキトマナイ川の東側支流流域。

分布 : 北東部地域に広く分布するほか, 南西方の下勇知海岸で, 夕来背斜軸の頂部に, わずかに分布している。

層相 : 全層を通じて, ほとんど暗灰色の泥岩から構成されているが, ときには, やや硬質の泥岩のほか, 凝灰岩の薄層をはさんでいることがある [ 以下の [注] 参照 ]

[注]
天北地域では, 声問層と下位の稚内層との地層境は, かならずしも, 統一されていない。 したがって, 調査者によって, 両地層の構成岩相の記載がいくぶんちがっている。

この泥岩は, 無層理でやや軟質の岩相をもっている。 風化すると, 淡灰色の不規則な岩塊にこわれやすく, また, 赤褐色の年輪状の縞模様があらわれる。 さらに, 水をふくんで粘土化されやすいので, 斜面崩壊が処々にできている。

化石 : 図幅地域内では, みとめられなかった。

層厚 : この地域では, 下限がみとめられないが, 隣接の稚内図幅地域 4) では, 400~500 m の厚さを測定している。

IV.2 勇知 ゆうち

模式地 : 勇知市街附近の丘陵台地の崖。

分布 : 勇知背斜および夕来背斜の, 頂部から両翼部にかけて, 帯状に分布している。

そして, 抜海海岸から勇知市街にかけた地域, および, 豊田 ほうでん から 大沢 おさわ にかけた地域で, 良好な発達をしめしている。

下位層との関係 : 声問層を構成する泥岩から泥質砂岩の卓越した岩相に変るところで, 両地層を境した。 地層は, 整合的である。 隣接する豊富図幅 9) 内では, 勇知層最下部の化石礁を鍵層として, 地層を境しているようである [ 以下の [注] 参照 ] が, この図幅内では, 鍵層として追跡できるようなものはみとめられなかった。

[注]
豊富図幅の中に, 抜海海岸付近では, 含化石礫岩層で声問層と接していると記載されているが, 抜海海岸に発達するこの礫岩層は, 勇知層ではなくて, さらに上位の更別層である。

層相 : この地層は, おもに, 泥質砂岩, 細粒砂岩から構成されており, わずかに, 泥岩や中・粗粒砂岩をともなっている。

泥質砂岩および細粒砂岩は, 暗青灰色の色調をもった, 塊状の岩相をもっている。 分級は悪く, 砂粒, 細礫, 浮石礫, 木片などをふくんでいる。 また, 雲母片をかなりふくんでおり, やや, 凝灰質の岩質をもっている。

この地層は, 一般的には, 下部から上部にむかって, 砂質泥岩 → 細粒砂岩・砂質泥岩互層岩相 → 中・粗粒砂岩を介在した細粒砂岩で, ときに礫質砂岩をレンズ状にはさんだ岩相と順次累重しており, 岩相が漸次粗粒質化する累積状態をしめしている。 しかし, 南西部地域の 小沢 こざわ 付近では, 下部相の一部が, 泥岩の卓越した泥質砂岩, および細粒砂岩などの互層岩相から構成されていて, 外観上では, 声問層と間違うような地層をなしている [ 以下の [注] 参照 ] 。 この岩相からは, ほかの地域で勇知層に普通産する介類化石と同種の化石がみとめられている。

[注]
北海道 20 万分の1地質図では, 声問層となっている。

化石 : 勇知層からは, 豊田 ほうでん , 勇知, 小沢 こざわ などの地域で, つぎのような介類化石を産出した。

Acila sp. (Acila gottschei type)
Venericardia sp.
Mactra sp.
Mercenaria stimpsoni (GOULD)
Macoma optiva YOKOYAMA
Turritella fortilirata SOW.
その他巻介数種

層厚 : 勇知背斜地域で, 200~250 m の厚さをもっている。

IV.3 更別 さらべつ

この地域の新第三紀最上部の地層である。 構成岩相のちがいから, 下部相と上部相とに区分される。

a) 下部層

模式地 : 抜海海岸の崖。

分布 : この図幅内で, もっとも広く分布している地層であって, 向斜構造の底の部分に, 緩傾斜で発達している。

下位層との関係 : 勇知層の砂質岩相から含礫砂岩の卓越した岩相に変るところで, 両地層を境しており, 地層は, 漸移している [ 以下の [注] 参照 ]

[注]
この地層境は, かなり便宜的に求めたものであるために, 各地点で求めたものが, かならずしも, 同時面とは考えられない。

層相 : 含礫砂岩と中・粗粒砂岩との不規則な互層累層であって, ところによっては, 細粒礫岩の卓越しているところもある。

礫岩および含礫砂岩の構成礫は, 指頭大以下の亜円形のものが多い。 礫種は, 黒色粘板岩, 黒色頁岩, 赤色チャート, 白色珪質岩, 硬砂岩などの古期岩類が多く, ときに, 暗灰色泥岩や砂岩がみとめられる。

砂岩は, 分級がひじょうに悪く, 偽層層理の発達した軟質岩相である。

この地層は, 全層を通じて, 層相変化のいちじるしい瀕海性堆積層である。

模式地では, 細粒礫岩を主とし, 含礫砂岩や粗粒砂岩をともなった岩相が, 発達している。 しかし, 勇知付近や豊田地域では, 偽層層理のいちじるしい含礫砂岩と, 粗粒~中粒砂岩との不規則な互層累層からなっている。 そして, ときに, 粘土質泥岩薄層を介在している。

化石 : 抜海海岸から, つぎの介類化石を産出した [ 以下の [注1] 参照 ]

Mytilus sp.
Patinopecten cf nakatonbetsuensis AKIYAMA
P. spp..
Scrripes groenlandica (BRUG.)
Dosinia tatunokutiensis NOMURA [ 以下の [注2] 参照 ]
D. sp.
Soletellina (Nuttallia) commonda (YOKOYAMA)
Panope japonica A. ADAMS
Spisula voyii (GABB)
Mactra sp.
Mya cunaieformis BÖHM
海胆 [ うに ]
[注1]
抜海海岸から産出する化石は, 全体に北海道内のほかの地域から産出する同種の化石にくらべて, ひじょうに大型になっている。 また, その化石群集は, 北海道主部地域の鮮新世の代表的化石動物群である「滝川 - 本別化石動物群」に類似している。
[注2]
畑井小虎および吉田新二による ; HATAI, KOTORA & YOSIDA Sinzi : On the Occurrence of Dosinia tatunokutiensis NOMURA, Bull. Biogeogr. Soc. Japan,Vol .11,No.7, 1941

層厚 : [ 記載なし ]

b) 上部層

模式地 : 豊田から兜沼にいたる開拓道路の峠下の付近。

分布 : 勇知背斜と夕来背斜との間にある大きな向斜構造の軸部で, 沼向 ぬまむかい から南の地域に分布しているが, 露出は, まえにのべの開拓道路ぞいに限られてみられる。

層相 : 下部相が, 礫質岩相の卓越した瀕海成堆積層であるが, この上部相は, 前者とは, 構成岩相がいちじるしく相違した陸成堆積層である。

細粒砂岩, 凝灰質中粒砂岩, 粒土質泥岩などの細かい互層であって, 凝灰岩, 亜炭などを介在している。

細粒砂岩は, 外観では, 勇知層の同質砂岩と酷似した岩相をもっているが, 勇知層のものにくらべて, 軟弱であり, また, かなり凝灰質である。

泥岩は, 暗青灰色の粘土質岩である。 いちじるしく湿性で, 軟弱な岩相をみせるもので, 炭化木片や浮石片をふくんでいる。

亜炭は, 砂粒や火山灰質物をまじえた粗悪なものであって, 未炭化木片, 枝, 木皮などをふくんでいる。 厚さは, 5~10 cm ていどである。

この地層の最下部には, 厚さ数 10 m の細粒砂岩が発達しており, この岩相の下底で, 下部相と境している。 この上位は, 粘土質泥岩, 凝灰質砂岩の細かい互層であって, 1~2枚の亜炭層をはさんでいる。

層厚 : 上限は不明であるが, ほぼ 150 m 前後と思われる。

V. 第四紀層

図幅地域に発達する第四紀の地層は, 洪積世の兜沼層, 段丘堆積物, 冲積世に属する冲積堆積物, 砂丘および 豊徳 ほうとく 火山灰層 [ 以下の [注] 参照 ; 利尻火山の火山灰 ? ] などである。

[注]
この火山灰層は, 地域全般にわたって, 表層をおおっている浮石質火山灰である。 地質図では, この地層は, 省略してある。 地層名は, 北川芳男の命名である。

V.1 兜沼 かぶとぬま 層(新称)

模式地 : 開源 かいげん [ 位置不明 ] 付近の国道 40 号線の切割りの崖, および, 兜沼小学校の北西方の砂利取り場。

分布 : 勇知川から南の山地および丘陵地域の上勇知の東方丘陵性台地, サラキトマナイ川流域のやや平坦な台地などで, 新第三紀の地層をおおって,広く分布している。

下位層との関係 : 緩く傾斜した新第三紀の地層の上に, ほほ水平に累重している。 累積状態は, 開源, 勇知市街から 40 号線にぬける山道, 小沢付近の峠, 豊田 - 兜沼開拓道路の峠下付近などでみることができる。

層相 : 砂礫層, 砂岩, 粘土層, 赤褐色ローム質火山灰などから構成された, 陸成堆積層である。

砂礫層は, 偽層のいちじるしい軟弱な岩相をもっている。 この岩相中には, 古期岩類の礫のほかに, 灰白色泥岩, 硬質頁岩, 砂岩などの亜円礫をかなり混えており, また, ときには,灰白色泥岩の岩塊をふくんでいることがある。

この砂礫層にふくまれる礫は, 地域によって, 礫の構成種にかなりの相違がみとめられる。

この地層は, 標式地では, 全層のほとんどの部分が砂礫層であって, 上位には, 砂層と粘土層の互層または粘土層が, 数 m の厚さで続き, さらに, 最上位には, 厚さ 50~80 cm の赤褐色のローム質火山灰層が重なって累積している。

しかし, 小沢付近の峠では, この標式的な累層とはちがって, 砂礫層をほとんどふくまない, 砂層と粘土層の互層岩相が, 厚さ 5~6 m で勇知層の上に発達している。 この岩相も上部には, 赤褐色のローム質火山灰層が発達しており, 兜沼層に相当する地層であることは明らかである。

兜沼層の粘土層や砂層中には, ときに, しょう 鉄鉱( 高師小僧 たかしこぞう )をふくんでいる。

なお, この図幅内では, 開源の露出に, 粗悪質で, レンズ状の亜炭層を介在している。

隣接地域の丸山付近の試錐岩心, および, 豊富南西方の 40 号線切割りのところでは, 数 10 cm の亜炭層を1枚挾んでいるようである [ 以下の [注] 参照 ]

[注]
湊正雄, 北川芳男などによる。

この地層で低い丘陵性台地の上に発達しているものでは, 段丘堆積物とほとんど区別することができない場合が多い。 この図幅内でも, とくに, 勇知川上流からサラキトマナイ川流域に発達するものは, 区別がはっきりつけられなかったので, 本稿の地質図では, 兜沼層として取扱ったが, 今後の研究結果で, 判然とさせたいと考えている。 このほかにも, 勇知川流域や, アチャルベシベ川流域などでも, 混乱しているものがあると思われる。

また, 勇知川とアチャルベシベ川との間の山地地域でほぼ標高 80 m よりも高位の部分に 兜沼層の発達がみられるかどうかについてもかなり不明確であって, この点も今後の調査に待つことにする。

兜沼層は, 発達状態およびこの上位に重なる地層その他の関係 [ 以下の [注1] 参照 ] から, ほぼ, 中期洪積世(ミンテル - リス間氷期)時期の,陸成堆積層であろうと考えられる [ 以下の [注2] 参照 ]

[注1]
この兜沼層の赤褐色ローム質火山灰層の上位には, 北川らによって「ワンコの沢軽石層」と名付けられた特徴のある火山灰層が重なっており, この図幅内でも, 数地点でその存在が知られている。 それらの地点でこの軽石層と兜沼層との間には, 不整合関係のあることがみとめられている。
なお, 本稿の地質図では, この軽石層ははぶいてある。
[注2]
湊正雄, 北川芳男などによる。

天北地域には, 新第三紀の地層をおおって, 沼川層と呼ばれている, 洪積世の地層が, 古くから知られている。 この地層は, 東に隣接する沼川図幅, 宗谷図幅 8) および豊富図幅 9) などの地域に広く分布していることが報告されている。

本稿で兜沼層とした地層は, 古くから沼川層と呼ばれてきた地層とは, 別の地層である。

なお, 両地層 [ 兜沼層と沼川層 ] の関係については, 今後の調査で明らかになるであろう。

化石 : 亜炭中から, Meniyanthes sp. のほか, 種の明らかでない木の種子を多数産出した。

層厚 : 地層分布の状態からみて, 70 m 以上に達するものと考えられる。

V.2 段丘堆積物

抜海~夕来間の海岸やクトネベツ低地帯の周辺地域には, 比高が 5~10 m の平坦段丘面がわずかに発達していて, それぞれ 数 m の厚さの砂礫層や粘土層が累積している。

このほか, 勇知川やサラキトマナイ川の流域にも, 丘陵台地の末端に, わずかに発達している。

この図幅地域は, がいして段丘の発達が貧弱であり, また, 隣接の稚内海岸地域 4) にみられる標高 40 m と 80 m の二つの平坦段丘面は, 海岸, 内陸をとわずみとめられないようである [ 以下の [注] 参照 ]

[注]
40 m 平坦段丘面は, 下男知 [ 位置不明 ] から抜海にいたる海岸ではみとめられるが, 堆積物とおぼしいものはみられなかった。

これは, この地域に限って, 後期洪積世時期における陸地の昇降運動が, 隣接地域にくらべて異常であったとは考えられない。 したがって, おそらく, その背後地からの岩屑の移動による埋積ないし変形に原因するのではないかと思われる。

V.3 砂丘

図幅内の海岸地帯全域にわたって, 多くの砂丘群が発達している。

この砂丘群は, 夕来 ゆうくる 付近を境として, 北部と南部とでは, 形態が, いちじるしくちがっている。

北部地域では, ほぼ, 現海岸に並列した, 狭長な砂丘が, 2~3列発達しており, 標高も, 海岸側から 2.5 m, 5 m, ときに 10~15 m と, 内陸側にむかって高くなっている。 また, もっとも内陸側のものは, やや削剥作用をうけている。

これに対して, 南部地域のものは, 第 2 図にしめしたように, 現海岸線にやや斜交した方向で発達しており, その形態もかなり複雑化している。

第 2 図 南部地域の砂丘群の発達状態

これらの砂丘は, その高度および開析度から, 5帯に大別されるようである [ 以下の [注] 参照 ]

[注]
一つの帯が1列の砂丘を表わすものではない。

第1, 第2帯は, 北部地域に発達するものによくにているが, 第3~第5帯の砂丘は, 開析作用が進行し, 小規模の砂山に分断されている。 そして, 砂山の間には, 湿地や低地が形成されている。 高度も 15~23 m と高くなっている。

V.4 沖積堆積物

図幅地域内の主要河川流域, 海岸地域には, 冲積堆積物が広く発達している。

この堆積物は, 地域によって, 構成物がちがっている。 すなわち, 河川流域の低地が広くなっているところでは, 泥炭層が, この周縁部や河川上流では, 砂・礫・粘土からなる累層が, 海岸や砂丘地帯では, 砂を主とした海浜砂層がそれぞれ発達している。

泥炭層 5) は, 大部分が, 木 - ヨシ泥炭から構成され, 砿質土壌を多く混えた低位泥炭である。 そして, 上サロベツ原野やアチャルベシベ川下流域の一部に, ヨシ - ヌマガヤ泥炭, ヌマガヤ - ホロムイスゲ泥炭などから構成された中間泥炭, ミズゴケ泥炭から構成された高位泥炭がわずかに発達している。

泥炭層の厚さは, 上サロベツ原野では 2~3 m, アチャルベシベ原野では 0.3~0.9 m である。

VI. 地質構造

この図幅地域の地質構造は, ほぼ, 南北方向に走る二つの背斜軸 -- 勇知背斜と夕来背斜 -- および, これに対応する二つの向斜軸によって支配されている。

これらの褶曲構造の両翼部の地層は, 5~12°の緩い傾斜をしめしている。

一方, 軸の方向については, 勇知背斜は南下りで, 南にむかって上位の地層が分布してくるが, 夕来背斜では, 下勇知海岸に声問層が分布し, これから南にむかって軸はやや急激に沈み, 勇知層および更別層が続いているが, 三線 さんせん の付近で軸の傾斜は反転し, 南にむかってうき上った構造にかわっている。 すなわち, この背斜では軸方向の褶曲が発達しているようである。

断層は, 勇知川の上流から開源付近にぬけた, ほぼ N 20~25°W 方向のものがみとめられる。 この断層は, 褶曲軸を斜めに切って発達している。

VII. 応用地質

この図幅地域の地下資源は, 石油および天然ガスである。

石油および構造性ガス

この図幅地域には, 勇知背斜, 夕来背斜と名付けられた, 二つの背斜軸が, 南北の走向で発達している。

勇知 ゆうち 背斜

この背斜は, 両翼の地層の傾斜が 20°以下の緩い構造状態をもち, また, 軸は南にむかって 7°前後沈んでいる。

この背斜構造は, 古くから良好な油田構造として知られ, 昭和 16 年から 20 年まで, 日下部石油鉱業株式会社によって開発された。

その間に掘さくされた井戸の深度そのほかの状態は, つぎのようである。

油井番号 掘さく年月 会社名 油井深度 m 掘進地層 掘進最低地層 成否 現採油 備考
C-1 昭 16.5~16.12 日下部 440 声問層 稚内層 × × 初産 : 200
ガス量 : 35
R-1 昭 17.1~17.4 308 声問層 × 初産 : 800
ガス量 : 43
R-2 昭 17.4~17.6 250 × ×
R-3 昭 17.6~17.8 283 × 初産 : 446
ガス量 : 35
R-4 昭 17.9~17.10 265 × 初産 : 105
ガス量 : 30
R-5 昭 17.10~17.11 270 × 初産 : 95
ガス量 : 35
R-6 昭 19.5~19.6 373 × 初産 : 320
ガス量 : 30
R-7 昭 19.8~ 202 × 初産 : 350
ガス量 : 30
R-10 昭 19.4~19.9 602 声問層
稚内層
稚内層 × 初産 : 920
ガス量 : 39
R-13 昭 19.12~20.5 608 ×
柏-1 昭 20.6~20.7 日本陸軍 300 声問層 声問層 ×
柏-2 昭 20.7~20.8 300 ×
[ 上表に関する注意書き ]
油井 C-1 では掘さく方法として「綱式」を, それ以外は「ロータリー」を採用していた。
備考欄に記した「初産」と「ガス量」の単位は それぞれ「l / d」と「m3 / d」である(d = day)。

第 3 図 旧坑井位置図

これらの井戸の柱状図によると, この地域では, いちおう, 採油に価する油層は 150~200 m, 210~250 m および 300 m 付近にあって, これより深部では, R-13 号で 420~450 m の間に油徴, 580 m 付近に多量のガスが確認された。 また, 各油井とも, 100 m 以浅で油徴およびガス徴が多く認められた。

これらの井戸は, 2~3をのぞいては, 石油およびガスを産出しているが, いずれも, 石油産量にくらべてガス量は少なく, ほぼ 30 m3 / d ていどにとどまっている。 なお, 現在は, いずれも廃坑となっている。

上にのべた油徴およびガス徴の認められた層準は, ほとんどが声問層中であり, R-10, R-13 および C-1 の3本が稚内層にはいっているようである。

天北油田地帯では, 一部の地域で, 稚内層中に油層およびガス層の存在することが確かめられているが, 大部分の油・ガス層は増幌層の中で認められている。

したがって, この背斜地域では, 石油・ガス鉱床の本体と目される増幌層層準に対する開発に大きな期待がかけられている。

夕来 ゆうくる 背斜

この背斜については, 今日まで石油およびガスについての地表徴候はまったく知られていないために, 未開発のままで放置されている。

背斜構造の形態としては, まえの勇知背斜とにており, ひじょうに緩傾斜をなしている。

なお, アチャルベシベ原野内で, この背斜軸が通ると思われるところで, 塩素量の濃度が 2,000 mg / l 以上の地下水の自噴井があり, また, この南でも, 深度 42 m ていどの井戸から, 塩素量 185 mg / l で, ガスをともなった自噴井が知られている 10)

これらの塩分の高い水およびガスについての詳しい分析はおこなっていない。 したがって, 明確ではないが, 冲積堆積物の下位に埋積されている石油およびガス鉱床の上部徴候かも知れない。

参考文献

1) 大村一蔵 :
北海道油田の地質及鉱床, 地質学雑誌,第37 巻, 1930
2) 飯塚保五郎 :
北海道宗谷油田の地質説明書, 地質調査所, 1936
3) 北海道石炭協会編 :
北海道炭田誌, 第1号,天北炭田, 1950
4) 小山内熙 :
5万分の1地質図幅説明書「稚内」, 北海道地下資源調査所, 1954
5) 飯塚仁四郎・瀬尾春雄 :
天塩泥炭地土性調査報告,その1,サロベツ原野を主体とする天塩国北部, 北海道農業試験場土性調査報告,第5編, 1955
6) 北海道鉱業振興委員会編 :
北海道石油鉱業の現況と将来, 1955
7) 長尾捨一・小山内熙 :
勇知油田調査報告, 所内未刊行報告, 1958
8) 小山内熙・三谷勝利・北川芳男 :
5万分の1地質図幅説明書「宗谷および宗谷岬」, 北海道立地下資源調査所, 1959
9) 長尾捨一 :
5万分の1地質図幅説明書「豊富」, 北海道立地下資源調査所, 1960
10) 北海道開発局農業水産部計画課編 :
サロベツ原野周辺の地質および水質, 1964

EXPLANATORY TEXT OF THE GEOLOGICAL MAP OF JAPAN (Scale 1 : 50,000)

BAKKAI

(Asahikawa - 8)

By Katsutoshi Mitani, Satoru Uozumi and Tsutomu Fujie (Geological Survey of Hokkaidō)


Résumé

The map area of the Bakkai sheet is located in the north part of Hokkaidō, between Lat. 45°10'~45°20' and Long. 141°30'~141°45'.

The area of this sheet map is subdivided topographically into four provinces. They are ; a) the province of alluvial flood plain and swampy plain less than 10 m in altitude ; b) the province of flat t errace and hilly terrace, less than 40 m height ; c) the coastal sand dune province ; and d) the mountainous province.

Geology

In this area are developed the Neogene and Quaternary strata, of which the stratigraphic successions are shown in [ the following ] Table.

Table : Geological Succesoion

Age Geological order
Quaternary Alluvium Alluvial deposits
Dilvium Terrace deposits
Kabutonuma formation
Neogene-Tertiary Miocene~Pliocene Sarabetsu formation Upper Member
Lower Member
Yūchi formation
Koetoi formation

1. Neogene System

The Neogene system of this area is subdivided lithologically into the Koetoi formation (Upper Miocene), the Yūchi formation (Lower Pliocene) and the Sarabetsu formation (Lower Pliocene). They are conformable with each other, and represent the upper half of the Neogene series developed generally in the Tempoku district (or the northern Teshio Province).

The Koetoi formation is composed, throughout the whole sequence, of dark grey, massive mudstone. This mudstone, when it is decomposed, changes into light grey, soft one, and shows a characteristic patterned colouration like annual rings.

The Yuchi formation is a series of muddy sandstone and fine sandstone, with a few intercalations of medium to coarse sandstones and of mudstone. Marine molluscan fossils which would probably be attributed to the Takikawa - Hombetsu fauna, the representative Pliocene fauna of Hokkaidō, are found in this formation.

The Sarabetsu formation is subdivided lithologically into the Lower and the Upper facies.

The Lower facies is represented by irregular alternations of conglomeratic sandstone and medium to coarse sandstones. Thick beds of granule conglomerate are developed locally. Cross bedding is well observed throughot this facies, and lateral change of lithology is considerable. Fossils of marine shells are obtained from these sediments.

The Upper facies is represented by frequent alternations of fine sandstone, medium-grained tuffaceous sandstone and claystone. It has a few intercalations of tuff and lignite.

2. Quaternary System

The Quaternary system of this area is composed of the Kabutonuma formation and the terrace deposits, as well as of the alluvial deposits and the sand dune deposits. Of these the former two belong to the Diluvial age, while the latter two are of the Alluvial age.

The Kabutonuma formation, lying on the Neogene formations unconformably, is developed extensively in the southern and eastern parts. It is the terrestrial deposits composed of sand and gravel, sand, clay and loamy ashes. Beds of crude lignite containing Menyanthes sp. are intercalated locally.

This formation is regarded as the deposits of the middle Pleistocene age, because of its mode of distribution and of the relation to the superjacent formations.

The terrace depos it s are developed rather poorly, and are found along the coastal district and also around the Kutonebetsu lowland. They make flat plains with a relative height of 5 to 10 m.

The sand dunes are extensive along the coastal district. To the south of Yūkuru, they are well developed invading as far as 2.5 km from the shore line. There, several rows of sand dune running along the inland side are so di ssected as to exhibit numerous isolated sand hillocks.

The main rives and streams of this area are furnished, along their lower and middle courses, with extensive swampy wilderness where thick accumulations of peat are formed.

Economic Geology

Petroleum and structurally controlled natural gas are the main underground resources in this area, which occupies a part of the Tempoku oil field. Two anticlines stretching early from north to south offer suitable structure for accumulation of petroleum. Among them the one named the Yūchi anticline has long been known, and several wells for petroleum were exploited on it. They yielded once a few quantities of oil and gas, but are now abandoned. These wells are rather shallow, not reaching so deep as the Masuhoro formation, the main oil reservoir in the Tempoku oil field. In this resepect, further exploitation is expected to be fruitful .


昭和 40 年 3 月 25 日 印刷
昭和 40 年 3 月 30 日 発行
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