02009_1965

5万分の1地質図幅説明書

磯分内 いそぶんない

(釧路 第 9 号)

北海道立地下資源調査所
技術吏員 松井公平
技術吏員 国府谷盛明

北海道開発庁

昭和 40 年 3 月


この調査は, 北海道総合開発の一環である, 地下資源開発のための基本調査として, 北海道に調査を委託し, 道立地下資源調査所において, 実施したものである。


巻頭図版 磯分内西方より東方台地をのぞむ


目次

はしがき
I. 位置および交通
II. 地形
II.1 丘陵性台地
II.2 河岸段丘
II.3 冲積地
II.4 河川
III. 地質
III.1 磯分内軽石流
III.2 上多和層
III.3 第1河岸段丘堆積物
III.4 第2河岸段丘堆積物
III.5 チャンベツローム層
III.6 新期火山灰
III.7 冲積層
IV. 地史
V. 応用地質
V.1 砂鉄
参考文献

Résumé

5万分の1地質図幅説明書

磯分内 いそぶんない

(釧路 第 9 号)


はしがき

この図幅は, 昭和 36 年から昭和 37 年の2ヵ年にわたっておこなった調査結果を整理し, まとめたものである。 調査に当っては, 地域を分担し, 松井が主として北西部を, 国府谷が主として南東部を, それぞれ担当した。

この地域は, すべて第四紀層から構成されているが, 屈斜路, 雌阿寒岳, 摩周岳, カムイヌプリ岳などの火山噴出物がさくそうし, 各地層の層準決定が, きわめて困難な地域である。 さらに, ここに分布する地層のなかには, この地域だけで解明できない問題がふくまれている。 この点については, こんごの調査により, 検討されなければならない。 なお, この地域に関連のある調査報告としては, 北に隣接する摩周湖図幅 3) が昭和 37 年に, 南に隣接する 標茶 しべちゃ 図幅 4) が昭和 38 年に, それぞれ刊行されている。

調査に際して, 標茶営林署の各位から, いろいろ御配慮を賜った。 また, 調査の整理にあたっては北海道立地下資源調査所の斎藤昌之所長から, いろいろ御指導をいただいた。 報告にはいるに先だち, 上記の諸氏に感謝の意を表する。

I. 位置および交通

この図幅は, 東部北海道にあって, 根釧原野の北部にあたり, 北緯 43°20'~43°30', 東経 144°30'~144°45' の範囲である。

行政的には, 北西部が川上郡 標茶 しべちゃ 町, 南西部が川上郡 弟子屈 てしかが 町, 東部が野付郡 別海 べつかい 村, 厚岸郡厚岸町, および標津郡 標津 しべつ 町の, 5ヵ町村にわけられている。 このうち, おもな集落は, 釧網線ぞいの標茶町字磯分内市街, 国道 根室標津線ぞいの 虹別 にじべつ 市街がある。 交通機関は, 国鉄 釧網線および, 丘陵地を横断する国鉄 標津線がある。 このほか, 標茶 - 西春別間の国鉄バス, 標茶 - 弟子屈間の道北バス, 弟子屈 - 虹別 - 標津間の阿寒バスの各路線が通じている。

第 1 図 位置図

II. 地形

図幅内の地形は, 1) 丘陵性台地, 2) 河岸段丘, 3) 冲積地に大別できる。

II.1 丘陵性台地

この地形は, 南に隣接する標茶図幅 4) 地域から連続する丘陵性台地である。 この台地地形については, 釧路地域を模式地とし, 佐々保雄(1939) 7) , 岡崎由夫(1960) 2) らによって, 次の三つの面が区分されている。

  1. 白糠面(白糠段丘 140~200 m)
  2. 根室面(根室段丘 60~120 m)
  3. 釧路面(釧路段丘 40 m ±)

そしてこれらの地形面に対比できる地形は, 釧路から北の, 内陸部に連続して, 発達している。

したがって, この地域の台地も, その一部にふくまれる。 調査地域内に発達する台地は, 標高 100~200 m であるが, この高度は, うえにのべた白糠面~根室面に対応する地形をしめしている。 しかし, この地形面上には, 新期火山灰が厚くおおっているため, 両者の地形差は明らかでない。 したがって, 根釧地域の地形区分に対比するだけの, 明瞭な地形区分はできない(標茶図幅では, 標高 80~100 m の開析の進んだ平坦面については, 根室面として扱っている)。 この地形を調査地域内で観察すると, 調査地の中央部からやや東よりに記されている郡界線を境にして, 西側は, 標高 100~200 m の高度をしめし, 開析が進んで平坦面の発達が悪く, 起伏が多い。 東側は, 標高 100~160 m の高度をしめし, 西側にくらべて, より明瞭な平坦面の発達がみられる, このような両者の地形面の相違から, 開析度の進んだとみられる西側地域は, 東側よりも, 古い地形と判断される。 また, 東側の平坦面の地形は, 根室標津, 別海原野から連続して発達する地形である。 したがって, この地形を, 釧路側で組立てられた地形区分に対比させるべきかどうか, という点については, 問題がある。 この点については, 現在調査が進められている標津図幅および 中標津 なかしべつ 図幅の, 調査結果にまつことにした。 したがって, この図幅では, これらの問題を残して, 両者を一括し, 丘陵性台地として扱った。

II.2 河岸段丘

河岸段丘は, 現河床からの比高で, 二つの段丘にわけることができる。 すなわち, 比高 20~30 m の第1段丘と, 比高 5~10 m の第2段丘である。

第1段丘は, 釧路川にそって発達するもので, 南西にゆるい傾斜をしめしている。 磯分内市街より北部では, この段丘面は不明瞭である。 この段丘と, 第2段丘および冲積面との間は, 急崖となっている。

第2段丘は, 釧路川流域のほか, 西別川およびポンベツ川の流域に発達している。 このうち, 釧路川流域でもっともよく観察され, 標茶町市街の東側の面がこれに相当する。 そしてこの連続が調査地域に発達している。 また第1段丘と違って釧路川に向ってゆるく傾斜している。 西別川は, 図幅の南東偶の河岸にはっきりした面が観察される。 したがってこの上流にも存在するはずであるが, 確認することができなかった。 ポンベツ川では, 河川の右岸によく発達している。 この段丘上には新期火山灰が厚くおおっているので, 釧路川を除く河川では, 冲積地との区別が困難である。

II.3 冲積地

冲積地のうち, キンマンタワ川, 西 風蓮 ふうれん 川, 中風蓮川ぞいには, 湿地が発達しており, 下流部ほど広がっていて, 釧路側あるいは, 別海側につながっている。 このように, 内陸部まで湿原地帯が存在することは, 冲積初期につくられた, 溺れ谷の末端部ということができる。

II.4 河川

この図幅地域の河川は, 阿寒に源を発し, 南西方向に流れる釧路川と, 南北方向の流れとなって, 釧路川に合流するその支流, および, 摩周岳山麓に源を発する西別川, 風蓮川, 中風蓮川, 西風蓮川の各河川である。 このうち, 西別川を除く各河川は, 集水流域が狭いにもかかわらず, 水量が豊富である。 これは, おそらく摩周山麓からの伏流水が, 標高 120~130 m あたりで湧水するためであろう。

III. 地質 [ 地質概説 ]

この地域の地質は, 地質層序表にしめしたように, すべて, 第四紀の地層から構成されている。 丘陵地の基盤となるものは, 屈斜路火山噴出物と推定される, 磯分内軽石流である。 これを不整合におおって, 砂・礫層が発達する。 この地層は, 南に隣接する標茶図幅 4) 内の層序に対比することができないので, この図幅では, 上多和層とした。 この地層は, 偽層がいちじるしく, 層相の変化が多いのが特徴である。 砂・礫のほか, 軽石を多量にふくんでおり, さらにこの上位に, チャンベツローム層がのっている。 このローム層は, ローム, 火山灰, 軽石などの火山噴出物で構成され, 図幅の全域にわたって, 広く分布している。

第 2 図 東西の模式柱状図

河岸段丘は, 砂層および礫層をおもな堆積物としている。 いままでのべた各地層をおおって, 新期火山灰が, 広く分布する。 これは軽石・火山灰,ロームなどから構成されるもので, 摩周岳, カムイヌプリ岳などの火山噴出物である。

冲積層は, 砂・礫および泥炭, 粘土から構成されている。 これは, 釧路川, キマンタワ川, 西風蓮川, 中風蓮川, 西別川などの各河川流域に発達している。

第 1 表 地質層序表

時代 層序 岩質 備考
第四紀 現世 現河川堆積物 砂, 礫, 泥炭
カムイヌプリ岳および摩周岳火山
新期火山灰 軽石, ローム
火山灰, 礫
更新世 チャンベツローム層 火山灰, ローム, スコリア, 軽石
屈斜路火山
河岸段丘2 砂, 礫
河岸段丘1 砂, 礫
上多和層 砂, 礫, 火山灰, 粘土
磯分内軽石流 軽石, 火山灰

III.1 磯分内軽石流

この軽石流は, 調査地西方の栄部落, および, 標津線の標茶 - 泉川間において, 標高 120 m 前後の丘陵地の頂上部で, 観察される以外は, 一般に基盤を構成して分布する。 軽石は, 暗灰色の石英安山岩質で, 径 20~30 cm 大である。 釧路川流域のほか, 2・3の地点では, 軽石が少なく, 火山灰が多くなっている。 これをもたらしたものは, 屈斜路火山活動と考えている。

この軽石流は, 標茶図幅 4) のなかで, 3層に区分されている軽石流のうち, この図幅に連続して分布する栄軽石流と, チャンベツ軽石流に相当する。 この2層の軽石流は, 両者の軽石の性質, 現地形上にみられる状態から判断すると, まったく同層準の軽石流と考えられる。 したがってここでは, 一括して, 磯分内軽石流とした。

第 3 図 栄の西方の新道切割に露出する磯分内軽石流(標高 100 m)

III.2 上多和 かみたわ

この地層は, 磯分内軽石流と不整合の関係で, その上位に分布している。

この地層は, 砂・礫を主体としているが, 細かい軽石を多くふくんでいる。 砂は, おもに石英粒の多い, 粗粒~中粒砂で, 灰色~淡灰色のものである。 軽石を多量にふくんでいるところは, 風化して, しばしば帯褐色をしめす。 礫は, 安山岩質のもので, 径 5 cm 大以下の円礫~亜角礫のものが多い。 この地層の上部には, 砂鉄が濃集している。 また, 調査地の東部では, 無層理の堆積状態をしめすところが多く観察され, 西部では, 偽層の発達がいちじるしいのが特徴である。 これは, 両地区において, 堆積環境に相違のあったことをしめしている。

この地層については, 構成物の類似から, 標茶図幅 4) 内の標茶層との関係が注目される。 まえにのべた, 磯分内軽石流を鍵としてみると, 標茶層は, 軽石流の下位に発達する地層であり, 上多和層は, 軽石流の上位に発達する地層である。 この関係から, 標茶層と同層準のものとして対比することができない。 また, この図幅の東部地域には, これまで, 西春別層とよばれてきた, 砂層および礫層を主体とした地層が分布している。 しかし, この地層との関係も, まったく不明である。 したがって, この図幅では, これを含めて, 上多和層として扱った。

第 4 図 大阪橋土取場。 上多和層(砂, 礫, 軽石)の上位は新期火山灰

III.3 第1河岸段丘堆積物

この段丘は, 釧路川の流域に発達する。 現河岸からの比高は 20~30 m である。 堆積物は, 厚さ 1.5 m で, 砂・礫から構成されている。 砂は, 粗粒砂~中粒砂である。 礫は, 径 5 cm 以下の安山岩質で, 円礫~亜円礫である。

第 5 図 磯分内軽石流と高位段丘堆積物と新期火山灰

III.4 第2河岸段丘堆績物

この段丘は, 釧路川流域ならびに西別川流域に発達する。 現河床からの比高は, 5~10 m である。 堆積物は, 厚さ約 2 m で, 砂・礫を主体としているが, 後背地の地質の影響から, 軽石, 火山灰などが介在する。 砂は, 粗粒~中粒砂で, 礫は, 径 5 cm 以下の安山岩質で, 円礫~亜円礫である。

第 6 図 低位段丘堆積物(上位は新期火山灰)。 磯分内北方

III.5 チャンベツローム層

この地層は, あとでのべる新期火山灰の下位にあって, 調査全域に広く分布する。 このローム層は, 火山灰, ローム, 黒色火山砂, 軽石などから構成されている。 下位から, 厚さ約 60 cm 前後の, 褐色~黄褐色の砂質火山灰ないし火山灰層がある。 この部分は, 場所によって, 欠除する場合がある。 この上位は, 厚さ約 150 cm で, 褐色~暗褐色の砂質ローム層がある。 このローム層は, 色調で区別できる斑紋, あるいは, 厚さ数 cm でち密な火山灰層がある。 これは, チョコレート色をしている。 そして, このローム層の上部には, 1~3層の, 厚さ 5~45 cm の黒色火山灰砂がみられる。 このような層相は, 調査地の中央部以南で, おもに観察することができる。 さらに, この上位は, 厚さ 120 cm 以下の軽石, あるいは,厚さ 10 cm 以下の砂の, いずれかが観察される。 軽石は, 2 cm 大の橙~黄褐色で, 部分的にクサっている。 砂は, 厚さ 10 cm 以下の粗粒砂で無層理状である。 この部分は, 磯分内市街の北方に限って分布するようである。

以上が, この図幅内に分布する, チャンベツローム層の一般的な層相である。 しかし, 地域によってかなりの変化がみられる。

標茶図幅 4) では, このローム層を上・下2層に大別している。 しかし, この図幅では, 両者の関係が明らかでないため, 一層として扱った。

第 7 図 泉川新道切割。 磯分内軽石流の上位にあるチャンベツロームと新期火山灰

III.6 新期大山灰

新期火山灰は, 摩周岳, カムイヌプリ岳の火山活動に由来する噴出物であり, 上位から9層に分類することができる。

第1層 : 層厚 5 cm 以下のもので, 調査地の表層部において, 上位に約 10~20 cm の腐植をともなう。 灰白色のさらさらした火山灰である。 調査地の東では, かなり不明瞭になる。

これは, 山田忍の Ma, 標茶図幅の Me1 にあたる。

第2層 : 層厚 100 cm で, 上部に約 40 cm の腐植をともなう, 褐色の砂質ローム, および灰色火山灰である。 砂質ロームは, 厚さ 50 cm で, ほとんど全域にわたって観察できる。 灰色火山灰は, 厚さ 10 cm 以下で, おもに調査地の東部地域に分布し, 西部地域では欠除している場合が多い。

第3層 : 層厚 30 cm で褐色の砂質ロームで, 上部に腐植をともなう。 おもに調査地の中央部より西に分布するようである。

第4層 : 層厚 30 cm 以下で, 灰色のやや粘性のある火山灰である。 調査地の東側では, この層準に, 厚さ 60 cm 以下の褐色ロームと腐植の互層部が発達する。 さらに, この下部には, 多くの場合, 厚さ 30 cm 前後の砂質ロームが観察される。

第5層 : 層厚 120~10 cm で, 褐色の軽石まじりのローム, あるいは, 砂質のロームで, ほぼ全域に分布する。 軽石まじりのロームは, とくに, 東部地域で厚さが増すようである。 ロームにふくまれている軽石は, 径 0.5 m / m [ ← cm ? ] 大の橙色~黄褐色のもので, 発泡の悪い軽石である。 調査地の西側では, この層準と考えられるところに, 厚さ 20 cm ± の砂質ロームが観察される。

この地層は, 山田忍の Mg にあたる。

第6層 : 層厚 90~20 cm で, 灰色~黄灰色の軽石で, 調査地の各所で観察される。 軽石の大きさは, 径 3~2 cm 大のほぼ等粒のものである。 またこの軽石には, 炭化木片をふくむ特徴がある。

この地層は山田忍の Mh, 標茶図幅の Mg1 にあたる。

第7層 : 層厚 5 cm 以下で, クリーム色の粘性の強い火山灰である。 これは, 調査地の東部に多く分布するようである。

この火山灰は, 山田忍の M1, 標茶図幅の Mg1 ? にあたる。

第8層 : 層厚 5 cm 以下で, 青灰色の細粒砂質の特徴ある火山灰である。 この火山灰は, ほとんど調査地全域に分布するので, 鍵層として使用できる。

これは, 山田忍および標茶図幅の Mj にあたる。

第9層 : 層厚 80~60 cm で, 褐色の粘性のあるロームである。 このロームの上位には, 3~2 cm の腐植を, かならずともなう。 第8層とともに, 調査地全域に観察される。

以上の第1層から第9層までは, 摩周火山に由来するものである。 また, 9層に分類したものは, 調査地の各所で観察できた柱状を, 整理しまとめたもので, 個々の場所で異なる場合のあることを, おことわりしておく。

第 8 図 新期火山灰模式柱状。
1 : 腐植土, 2 : ローム軽石まじりのローム, 3 : 砂質ローム, 4 : 火山灰, 5 : 軽石

III.7 冲積層

この地域の冲積層は, 釧路川, キンマンタワ川, 西風蓮川, 中風蓮川などに発達する。 釧路川ぞいのものは, 南に隣接する標茶図幅 4) からの延長部の発達である。 砂・礫・粘土で構成されている。 確かな厚さは不明であるが, 3 m 以上はあると推定される。 風蓮川の上流には, 厚さ約 1 m の薄い泥炭層をはさんだ, 灰白色の粘土が発達している。 このほかの河川については, 河川にそって, 湿地帯が発達しているため, 実際に露頭を観察することができなかった。 しかし, おそらく, 泥炭が形成されていることと予想される。

IV. 地史

すでにのべたように, この地域には, 洪積世の中期から冲積世にわたる地層が発達している。 そして, この地域の南方には, いわゆる根釧地域とよばれる, 同様の地質構成をもつ地帯が拡がっている。 この根釧地域は, 洪積世の前期に, 千島弧の内・外帯にはさまれた, 浅海~瀕海地域となり, その内・外帯のあい対立する基盤運動によって, 北東~南西方向を軸とした造盆地構造運動の, 過程をへて形成されいる。 この地域は, 根釧地域のほぼ北端に位置していることから, この調査地の地史は, その運動の一端をしめすものとして, とらえることができる。 まえにのべた造盆地構造運動は, 釧路層の堆積をもたらし, 洪積世中期後半にはいって, この地域では, 海退と地盤の隆起があり, これにともなって, 河川の侵蝕が進んだ。 そしてこの時期に, 屈斜路火山活動は一そう活発となり, 大量の軽石流を噴出した。 磯分内軽石流は, この時期のものである。 洪積世の後期にはいって, 一度低下した海水面は, ふたたび上昇をはじめ, ほぼ現在の地形にみられる低地帯にそって, 海水の侵入がおこなわれた。 上多和層は, この時期の堆積物と考えられる。 ここで問題として考えられることは, この時期における海侵の規模がどの程度のものであったかということである。 これについての疑問は, 地質のところでのべたが, 上多和層は, 東と西とでは, 堆積環境の相違があることを説明した。 また, 調査地の東側にも, 基盤に釧路層群が確認されている。 そして, この上部に, これまで西春別層とよばれてきた砂層, 礫層が発達していることが知られている。 ここで, このときの海侵が, 釧路 - オホーツク海につながる規模のものであったか, あるいは, わずかの稜線部を境にして, 東と西に2分された海侵があったのか, この点を解明する資料は, 現在のところ,まったくえられていない。 しかし, 釧路層群堆積後, 海退, 海侵がおこなわれ, 上多和層とした, 砂層礫層の堆積がおこなわれたことは事実である。 したがって, この事実について, 釧路側とオホーツク海側との関連をどう解明するかということが, こんごに残された大きな問題と考える。

上多和層の堆積後, ふたたび海退がはじまり, 河川の侵蝕が活発となって, 河岸段丘が形成され, その上位には, 軽石, スコリヤ, 火山灰などの火山噴出物が, 丘陵および段丘上に堆積した。 これが, チャンベツローム層である。

冲積地にはいると, いままで形成された深い谷は, 冲積海侵で溺れ谷となり, 海水は, 丘陵地の小さな谷の末端部まで導入した。 この名残りとして, 湿地帯が, 調査地の各河川にみられる。 そして, この湿地帯には, 泥炭, 粘土などを堆積させた。 また, これまで活動をつづけていた屈斜路火山は, ようやくおさまり, かわって, 摩周火山の活動が活発となった。 そして, ふたたび, 丘陵地および段丘上に火山灰, 軽石, スコリヤなどの噴出物が堆積した。 これが新期火山灰である。 以上のように, この地域は, 洪積世の前期, 釧路層群の堆積をもたらした, 造盆地構造運動にはじまり, この運動と, 背後の屈斜路, 摩周岳などの火山活動と密接な関連をもって, 現在の地形, 地質が形成された。 この過程のなかで, まえにものべたが, 洪積世の中期に堆積したと考えられる, 上多和層の問題が残されている。

V. 応用地質

この地域は, 地質の構成上, 地下資源としてみるべきものはない。 ただし, 上多和層には, 砂鉄が包含されているので, 簡単に説明を加える。

V.1 砂鉄

この地域の砂鉄は, おもに砂・礫層から構成される, 上多和層に賦存している。 昭和 39 年, 特殊地帯調査の一環として, 上多和層の砂・礫層を対象に, 砂鉄の賦存状態の調査がおこなわれた。 この調査は, 泉川~大阪橋の周辺をもおもに踏査したものであるが, その結果では, 上多和層の上部において, とくに砂層(厚さ 1~1.5 m の範囲)の部分に, 縞状あるいは, めくら状に砂鉄のふくまれていることが, 明らかにされた。 この層準には, 相当の範囲にわたり, 砂鉄の賦存が観察される。 着磁率は場所によって違っているが, 参考までにあげると 6.8~13.6 % である。

なお, この調査結果は, 北海道開発所から詳細な報告書が刊行される予定である。

参考文献

1) 山田忍 :
火山噴出物の堆積状態から見た冲積世における北海道火山の火山活動に関する研究, 地団研専報 8, 1958
2) 岡崎由夫 :
釧路平原とその周辺の地形発達史, 釧路平原生成過程の研究(第 6 報), 1960
3) 国府谷盛明・外 3 名 :
5万分の1地質図幅説明書「摩周湖」, 北海道開発庁, 1962
4) 斎藤昌之・外 1 名 :
5万分の1地質図幅説明書「標茶」, 北海道開発庁, 1963
5) 藤原哲夫・外 1 名 :
根釧地方における山砂鉄鉱床の層準, 北海道立地下資源調査所報告, 第 32 号, 1964
6) 藤原哲夫・外 1 名 :
標茶町上オソツベツ砂鉄鉱床調査報告, 北海道開発局 局長官房開発調査課, 1964
7) 佐々保雄 :
北海道下部洪積統釧路層につきて, 矢部教授還暦記念論文集, 1939

EXPLANATORY TEXT OF THE GEOLOGICAL MAP OF JAPAN (Scale, 1 : 50,000)

ISOBUNNAI

Kushiro - 9

By Kōhei Matsui and Moriaki Kōnoya (Geological Survey of Hokkido)


Résume

The area of this sheet map, situating in the eastern part of Hokkaido, covers from latitude 43°20' to 43°30' N, and from longitude 144°30' to 144°45' E. In this area, the Quaternary deposits are developed extensively, but the effusives of the volcanoes Kutcharo, Mashu and Meakan are also found intricate.

Topography

Topography of this area is represented by that of hilly terrace ranging from 100 to 220 m in altitude. The terrace surfaces distinguished here are correlated, upon the basis of their heights, to the Nemuro surface (60 - 120 m altitude) and the Shiranuka surface (140 - 200 m altitude) which are established in the Konsen (Nemuro - Kushiro) district.

Owing to the blancket of the younger volcanic ashes, however, the characteristics in relief are rather indistinct between them.

Along the river Kushiro two river-side terraces are found developed. The 1st terrace is 20 to 30 m high above the present river bed, and the 2nd terrace is 5 to 10 m high. Other rivers are furnished only with the 2nd terrace.

Geology

The geology of this area, as shown in the following table, is represented exclusively by deposits of the Quaternary Period.

Quaternary Period Recent Alluvial deposits
Younger volcanlc ashes
Diluvium Chanbetsu loam beds
2nd terrace deposits
1st terrace deposits
Kamitawa formation
Isobunnai pumice flows

The Isobunnai pumice flows are composed mainly of dark grey to grey pumice blocks, 20 to 30 cm in diameter, but are represented, in some areas, by volcanic ashes. These pumice flows are the lowest beds in this map area, and are exposed in several small hills resembling to "monadonocks". In the area of the Shibecha sheet adjacent to the south three beds are distinguished in these pumice flows. Among them the Osotsubetsu pumice flows and the Sakae pumice flows extend into the present area. But the lithologic characters and the topographic features of their surfaces, in this area, are so similar with each other that one can hardly distinguish them. Accordingly they are treated as one and the same pumice flow formation under the name of the Isobunnai pumice flows.

The Kamitawa formation is composed of sand, gravel and fine pumice. Cross bedding is well developed in this formation. Lying on the Isobunnai pumice flows, it covers a large part of the mapped area. This formation resembles, in its lithology, to the Shibecha formation of the Shibecha area which lies adjacently to the south. As the Shibecha formation occupies a horizon below the Isobunnai pumice flows, it can be correlated with the Kamitawa formation lying above the pumice flows.

The Nishi-shumbetsu formation in the eastern part of the map area has long been known as a series of sand, gravel, and clay beds. It is included in the Kamitawa formation, in this report, though the stratigraphic relation between them is not clarified as yet.

The deposits of the 1st river-side terrace are composed of sand and gravel, and are well developed along the river Kushiro. The deposits of the 2nd river-side terrace are composed of sand and gravel, and are found along the rivers Kushiro and Nishibetsu.

The Chambetsu loam formation is composed of volcanic ashes, loam, pumice and scoriae, and are found developed all over the mapped area. This loam formation, in the area of the Shibecha sheet, is subdivided into the Upper and the Lower parts. In the present area, however, they are hardly distinguished from each other and are treated as one unit.

The Younger volcanic ash formation is developed throughout the area covering all the formations described above. The ashes of this formation are considered to be ejected from the Mashu volcano, Mt. Kamuinupuri and Mt. Meakan. The formation is composed of volcanic ashes, pumice and loam, and is subdivided into 9 beds by means of humus and characters of the volcanic ejecta. The same formation is studied by Shinobu Yamada who also distinguishes 13 beds in it. He named them, in descending order, Ma, Mb, …, Ml. Though the number of beds distinguished is equal, the contents are different between those of Yamada and of the present writers, and the two series of stratigraphic succession established independently are unable to be correlated with each other. Accordingly they are named, in this report, the 1st bed, the 2nd bed, …, the 9th bed, from top to bottom.

The Alluvial deposits, being composed of sand, gravel and peat, are found along the rivers Kinmantawa, Nishi-furen and Naka-furen. Along these rivers, except for the river Kushiro, swampy land is developed.

Economic Geology

No appreciable underground resources are found in this map area. In some cases, however, iron sand is concentrated in the sand facies of the Kamitawa formation. But exploitation for the iron sand is not warranted, because no workable ore bed is expected in it.


昭和 40 年 3 月 25 日 印刷
昭和 40 年 3 月 30 日 発行
著作権所有 北海道開発庁