有珠火山2000年噴火映像集

宝田晋治・風早康平・西村裕一・川邊禎久・星住英夫・宮城磯治・廣瀬 亘・吉本充宏・斎藤英二・三浦大助(2003)

地質調査総合センター研究資料集.DVD, VHS (15分)

地質調査総合センター研究資料集 no. 399

GSJ Open-file Report no. 399

はじめに 

有珠火山2000年噴火で3月31日〜8月23日に撮影したビデオ画像のうち,噴火現象の記録として重要と考えられる映像を厳選した上で,合計約15分の映像集にまとめた.編集した映像集は,DVD及びVHSとして高解像度で登録してある.このページでは,概要を見ていただくため,小さいQuickTime Movieを掲載した.なお,3月31日の映像の撮影者は風早,それ以外の映像の撮影者は宝田である.有珠火山噴火現象の記録として活用いただければ幸いである.

噴火映像

1.2000年噴火の開始 (2000年3月31日13時7分〜8分&13時21分 洞爺湖北西サイロ展望台より撮影)(QuickTime Movie, 58秒間,768KB)
 
西山の西山腹から発生した最初のマグマ水蒸気爆発による噴煙.この噴火が2000年の噴火では最大の噴火であった.13時7分にはじまった噴煙ははじめは静かにゆっくりと上昇した.11分ごろから比較的勢いのある噴煙が次々と上昇した.噴煙柱の高度は最大で3500mに達した.初期の堆積物には約40%のマグマ由来の軽石が含まれていた.噴煙柱の下部にやや白色のゆっくりとした火砕サージ状の流れが発生している.噴火地点から北に8kmのサイロ展望台では,多数の報道機関関係者が集まり,噴火開始時は騒然とした状況であった.なお,1秒間3フレームにしたより長時間の詳細なビデオ映像が研究資料集No. 370に登録されている.また,噴煙柱の時間変化や堆積物の記載は,宝田ほか(2002)火山,47, 645-661に詳しい.


2.西山および金比羅火口群周辺の状況,ジェット状の水蒸気爆発(2000年4月9日午前ヘリより撮影)(2分15秒,3.7MB) 
 西山西麓付近では,西山A火口(NA火口)と西山B火口(NB火口)で小規模な水蒸気爆発が起こっていた.西山A火口から噴石や噴泥が周りに飛び散っている状況がよく分かる.西山A火口の南には3月31日に開いた火口(N1, N2, N3火口)が見える.また,国道230号線周辺は,地下からのマグマの貫入によって形成された多数の正断層群が発達している.正断層群の発達過程は,三浦・新井田(2002)火山,47, 119-130が詳しい.ビデオ映像の後半は,金比羅A火口から噴出した比較的規模の大きいジェット状の水蒸気爆発である.海抜高度800m以上に達している.金比羅A火口丘のふもとには,水蒸気を上げた熱泥流の発生が確認できる.熱泥流は金比羅A火口の南東側の噴火口群にたまった地下水がマグマの熱で暖められて火口の外に流れ出したものである可能性が高い.降灰で覆われた洞爺湖温泉街の状況が良く分かる.


3.洞爺湖温泉街で発生した熱泥流,ジェット状の水蒸気爆発(2000年4月9日9時57分&10時1分ヘリより撮影)(1分33秒,1.1MB)
 
金比羅火口群からあふれ出した高温の地下水が熱泥流となって.洞爺温泉街に流れ出している.熱泥流は,導流堤内部だけでなく,国道230号線の上も流れている.上部の団地方向にも熱泥流が流れている.泥流の移動速度は比較的ゆっくりとしている.後半は,金比羅A火口から噴出したジェット状の水蒸気爆発である(10時1分ごろ).


4.有珠火山と昭和新山(2000年4月9日南東方向よりヘリから撮影)(28秒,460KB)
 
南東方向から見た有珠火山全体と北東山麓の昭和新山.外輪山とその上部の大有珠やオガリ山などの溶岩ドームが見える.昭和新山のふもとには屋根山がみえる.手前の台地は,約11万年前の洞爺火砕流堆積物でできている.そのむこうの河川は長流(おさる)川である.


5.西山B火口の水蒸気爆発とアスファルトの変形(2000年4月14日虻田洞爺湖ICの南西から撮影)(1分46秒,1.9MB)
 
西山B火口の南西1.3km地点(洞爺虻田IC南西)からみた西山B火口の水蒸気爆発の状況.ジェット状の噴煙や,花火のように球面状に噴石や噴泥を周囲に飛ばす炸裂型の噴煙が見える.このようにして,西山B火口の周辺には噴泥や噴石からなる火砕丘ができる.ビデオ映像の最後は洞爺虻田IC付近の国道230号線の地殻変動の状況である.アスファルトの変形と電線のたるみが顕著である.マグマの貫入によって,隆起域中心域から約3km離れた地点までこうした地殻変動が起こった.地殻変動のため,高速道路は約1年間通行止めとなり,JR線も3ヶ月間運休となった.地殻変動については,廣瀬・田近(2002),火山,47, 571-586が詳しい.また,電柱間の電線のたるみについては,佐藤ほか(2002),火山,47,699-704が詳しい.


6.光波測距用ミラーの設置,測定,高速道路の変形(2000年4月14日虻田洞爺湖IC周辺および国道37号線から撮影)(32秒,2.5MB)
 
洞爺湖虻田IC付近に光波測距(DEM, レーザーで2点間の距離を精密に測る装置)用の反射ミラーを設置している様子.特殊な反射ミラーで,必ず入射した方向にレーザーが反射するようにできている.作業者は斎藤.こうした反射ミラーを隆起地域の周辺に多数設置して変動観測を実施した.ミラーから約2km離れた国道27号線付近から光波測距用の装置で距離を測定中.光波測距の詳細な観測結果は,研究資料集No. 382斎藤ほか(2001), 地調研報,52,207-214に詳しい.ビデオの最後は,洞爺虻田IC付近の高速道路の変形状況である.


7.西山火口群周辺の状況 地殻変動,国道230号線,地熱地帯,西山B火口内部(2000年6月22日西山西火口群周辺で撮影)(2分55秒,9.4MB)
 
隆起地域の家屋の被災状況.多数の正断層によって大きく変形している.また,噴石による被害も顕著である.オレンジ色の建物は,わかさいも(北海道のお菓子)の工場跡.地溝状の正断層群で大きく変形した国道230号線.断層の落差は最大10m以上.国道の上には多量の火山灰や噴石が堆積している.隆起域北西付近の地熱地帯.地温は高いところで100度近い温度がある.高温の蒸気の噴出が至る所で見られる.西山B火口内部の様子.火口の直径は約70m.火口壁内部にはいくつかの地滑り跡が見られる.火口の周辺には多数の噴石が散らばっている.比較的円磨された噴石も多い.白色噴煙の噴出口付近では上から見て反時計回りに噴煙が回転していた.盛んに岩石が吹き上げられてはすり鉢状の火口の内部に落ちて,ふたたび噴出口に転がり落ちていた.こうして円磨された噴石が多数形成されていく.火口近傍の状況は,宝田ほか(2001),地調研報, 52, 167-179.や宝田ほか(2002)火山, 47, 645-661に詳しい.


8.洞爺湖温泉街の降灰,金比羅B火口の噴煙(2000年7月5日洞爺湖温泉街で撮影)(57秒,1.6MB)
 
洞爺湖温泉街の降灰状況.金比羅B火口の東約1kmの地点.厚さ5cm程度の降灰が見られた.最下部にやや灰色の厚さ0.7cmの3月31日の降灰があった.金比羅B火口の噴煙の状況.手前の家屋の屋上には噴石による被害の跡が見られる.吹き上げられた噴石や噴泥が周囲に飛び散っている.大きめの水蒸気爆発では空振が聞こえていた.


9.金比羅B火口内部と周辺の状況(2000年8月23日金比羅B火口南縁から撮影)(1分17秒,2.5MB)
 
金比羅B火口内部の状況.金比羅B火口の全体の直径は約100m.その内部に直径10m程度の噴出口があり,そこから盛んに水蒸気の噴煙が上がっている.直径数cm〜数10cm大の噴石や噴泥を盛んに吹き上げている.比較的円磨された噴石が多い.周辺には細粒堆積物が大量に堆積していて,降雨の翌日などは大変歩きにくい状況であった.ビデオ映像の最後(54秒ごろ)に背景に見える大きな火口は,金比羅A火口である.火口近傍の状況は,宝田ほか(2001),地調研報, 52, 167-179に詳しい.

10.西山B火口内部と周辺の状況(2000年8月23日西山B火口東縁から撮影)(40秒,1MB)
 
西山B火口内部の状況.火口の直径は約80m.火口底では,水蒸気によって乾いた砂や礫が激しく流動していた.6月22日に比べて火口内部の状況は大きく変わっていた.火口壁の地滑りによって火口のサイズがやや大きくなっていた.