有珠火山2000年噴火記録写真:2000年4月3日〜5日

Photos of the 2000 eruption of Usu volcano: Apr. 3 to 5, 2000

東宮昭彦(産業技術総合研究所・地質調査総合センター)

Akihiko TOMIYA (Geological Survey of Japan, AIST)


1.はじめに

有珠火山2000年噴火活動は,3月31日の最大規模の噴火の後,その勢いを急速に減じていった.特に,広域的に顕著な降灰を伴うような爆発は4月4日18時頃のものが最後であった. 本報告は,その4月4日18時イベントを含む,4月3日〜5日の活動の様子をとらえた写真についての解説である.
全写真とも撮影は東宮による.35mmフィルムで撮影してサービスサイズに焼き付けた写真を,フラットベッドスキャナで読込んでデジタル化した.一部の写真ではコントラストを上げるためにデジタル画質補正を行なっている.
写真の多くは洞爺湖の対岸から撮影されているため,具体的にどの火口が活動したのかを特定することはできないが,少なくとも複数の火口から交互に噴煙が上がっていたことは明らかである.

2.4月3日の様子(観測時間=日中,断続的)

2.1 4月3日の活動の概要

この日筆者は,割れ目調査,村役場への報告,噴出物調査などで各所を移動していたため,噴煙観測は断続的なものとなった. 観測時間内では,11時頃にやや大きな爆発(単発的)が見られたものの,顕著な降灰をもたらすような噴火はあまり見られなかった.
なお,4月3日の9時前後に道立地質研 (2000;「2000年有珠山火山噴火観測速報」) は“噴石を伴う大規模黒煙”を記録しているが,筆者は9時前後には壮瞥村役場内にいたためこれを確認していない.
また,4月3日0〜12時の金比羅山火口噴煙活動については,気象研究所 (2000) が“時間軸画像”(*)を作成し,火山噴火予知連絡会2000年5月22日会合用資料として発表している.
(*) 北海道開発局サイロ展望台監視カメラ映像データから,K-A火口を含む幅30m・高さ1920mの短冊型画像を30秒毎に切り出して横方向につなぎ合わせた画像.

2.2 4月3日の活動の写真

写真1〜2:金比羅山火口の単発的爆発(写真1(左):4月3日10時59分撮影,写真2(右):同11時01分撮影;洞爺湖南東岸・滝之町より)
この日,金比羅山火口ではこのような単発的な灰混じりの爆発が起こっていた. いずれも数分以内で治まった.爆発で放出された火山灰は上昇中にただちに噴煙から分離して降下し,水蒸気(白いプリューム)だけが上昇していった.従って,放出される火山灰は湿った重たいものであったと考えられる.

写真3:“漂着軽石”(Us-2000pm)(4月3日12時07分撮影;洞爺湖南東岸・滝之町にて)
当時,洞爺湖の湖岸には3月31日噴火で放出された軽石が漂着していた(白く帯状に広がっているもの).白色でよく発泡しており,粒径は数mm〜2cm程度であった.
その後の詳しい分析によってこの軽石は本質物(マグマ起源物質)であることが明らかになった(東宮・他,2001:地調研報).
写真4:“漂着軽石”のクローズアップ(4月3日10時13分撮影;洞爺湖南東岸・滝之町にて)
写真の赤い手帳のサイズは11.5cm×16cm.
写真5:洞爺湖の湖面を漂流中の軽石(4月3日09時38分撮影;洞爺湖南岸・壮瞥温泉東にて)
写真を横方向に横切っている白い帯状のものは漂流中の軽石(3月31日噴出)であり,このような帯が湖岸に漂着すると“漂着軽石”として観察されると考えられる.

写真6:金比羅山火口の単発的爆発(4月3日12時34分撮影;洞爺湖東岸・東湖畔の発電所=定点2=より)
この爆発では最大で黒煙が300m・白煙が1200m程度まで上がったが,1分ほどですぐに治まった.よくみると,奥の方で西山火口の噴煙も上がっている(目立つ噴煙のすぐ左に小さく見えている).
なお,当時は決まった観測ポイント(定点(※))を定め,噴煙観測や地殻変動観測(セオドライト)が繰り返されていた.本写真の撮影場所である東湖畔の発電所は「定点2」と呼ばれていた.

(※) 参考までに,2000年3月末に定められた6つの定点は次の通りである:
定点1=滝之町(森と木の里センター・壮瞥公園); 定点2=東湖畔(発電所); 定点3=仲洞爺(三恵病院); 定点4=サイロ展望台; 定点5=洞爺(洞爺湖スキー場から2kmほど北の国道沿い); 定点6=村営牧場.
これら6点は洞爺湖を取り囲むように配置されていたが,定点5と定点6は間もなく立入規制区域になったことなどからあまり用いられることはなかった.また,後に定点7が有珠山南東麓に設定されている.

写真7:仮設の有珠火山観測所(4月3日14時17分撮影;伊達市内にて)
従来の有珠火山観測所(壮瞥温泉)が危険になったため,伊達市館山町(市営館山球場駐車場)に急遽プレハブ建ての臨時観測所が建てられた.撮影当時,1階には様々な観測機器が置かれ,2階は合同観測班の詰所になっていた.
写真8:仮設観測所(プレハブ)の2階から見た有珠山(4月3日14時51分撮影;伊達市内より)
写真は14時49分頃から上がった白煙の様子.観測所内に置いてあるモニター(サイロ展望台に設置された北海道開発局のカメラの映像がリアルタイムで表示される)によって,金比羅山火口からの噴煙であることが確認されている.
なお,午後は顕著な降灰を伴うような爆発は特に見られなかった.
目の前の球場は,有珠山観測用ヘリコプターの発着場として使われていた.


3.4月4日の様子(観測時間=8時30分頃および8時50分〜18時25分頃)

3.1 4月4日の活動の概要

4月4日の観測時間中には,顕著な降灰をもたらす爆発が4回確認できた. それらは,8時半頃,10時40分頃,13時30分頃,18時頃のものである. このうち18時頃のものが最大規模で,火山雷も伴っていた. ほかにも黒煙を数百m上げる程度の爆発が何度かあった. (例えば,15時51分〜16時14分のイベントなど.)
4月4日の活動は,概して灰をたくさん降らせていたように見えたほか,風が弱かったために噴煙が上空に滞留する傾向があった. このため,大きな噴火の度に洞爺湖温泉街は何度も黒煙の中にすっぽりと覆われていた.
なお,4月4日は時間とともに風向きが変化したために,灰が東方向から次第に北方向に流れるように変わっていった様子が,一連の写真からよく分かる.

3.2 4月4日の活動の写真

写真9:漂う火山灰(4月4日8時31分撮影;久保内付近より)
この日は風が弱く,噴煙はあまり風に流されずに上空に長時間漂う傾向があった.
写真は,8時半頃のやや規模の大きな噴火で放出された大量の火山灰が蛇行しながら上空を漂うのを,火口の東方約12kmから見た様子.
写真10:漂う火山灰(4月4日8時54分撮影;東湖畔の発電所=定点2=より)
写真9と同一の噴煙を定点2(火口から東北東9km)から見た様子. この写真の後,火山灰はゆっくりと観察者の方(定点2)に流れてきて,9時15分頃には10分間ほど小雪が舞うような降灰があった.典型的な粒径は100μm程度であったが,もっと細粒な粒子も同じく100μm程度の塊 (aggregate) となって降ってきていた.

写真11:金比羅山火口10時30分頃の小規模な噴火(4月4日10時33分撮影;東湖畔の発電所=定点2=より)
8時半頃のやや規模の大きな噴火が治まった後は,白煙が出たり止まったりする穏やかな状態が続いていたが,10時30分にコックステールジェットを放出する爆発が起こった.しかし,10時40分には一旦噴煙は完全に停止した.

写真12:金比羅山火口10時42分頃のやや規模の大きな噴火(4月4日10時48分撮影;東湖畔の発電所=定点2=より)
一旦噴煙は完全に止まっていたが,10時42分に突然爆発し,黒色の噴煙が拡大し続けた. 激しい噴上げは4分ほど続き,噴煙は1000m程度まで上がった. その後も灰混じりの噴煙がもくもくと出続けたが,11時10分くらいには白煙(水蒸気)のみを出す穏やかな活動に治まった.
写真は,激しい噴上げが落ち着いて,大量の火山灰が洞爺湖温泉街にゆっくり流れていく様子.写真では一見火砕流のようにも見えるが,その実態は火砕流とはかけ離れた現象である.

写真13〜14:金比羅山火口13時30分頃のやや規模の大きな噴火(写真13(左):4月4日13時30分撮影,写真14(右):4月4日13時39分撮影;東湖畔の発電所=定点2=より)
それまで白煙のみが出ていたが,13時20分頃からコックステールジェット(高さ200m程度)が連発するなど活動が活発化し,やがて黒煙がもくもく出るようになった.最盛期には,ポン,ポン,と花火のような音が聞こえて来た.一旦治まりかけた後,13時26分頃に再び激しく黒煙が上がり,噴煙は最高1000m以上上がった(写真左).噴火は13時40分頃に停止したが,火口域の煙が晴れたのは13時47分頃であった.大量の火山灰は洞爺湖温泉街に降下しつつ,北東方向へ流れていった(写真右).

写真15〜20:金比羅山火口18時頃の規模の大きな噴火(写真番号の順に4月4日17時46分〜18時14分撮影;森と木の里センター・壮瞥公園=定点1=より)
17:46  17:56  18:00  18:01  18:09  18:14 
4月4日最大の噴火は18時頃に起こった.この噴火は,顕著な火山灰放出の継続時間が少なくとも30分以上という比較的大規模なものであった.以下に,そのおよその推移を示す.
17時38分頃にコックステールジェットの噴出が始まり,しばらく噴煙がもくもく出続ける. 17時42分には激しく爆発し始め,ポン,ポンという音が定点1(火口の東約6km)でも聞こえる. 一時は黒煙が500m以上噴き上がるが,17時53分に噴煙は一旦完全に停止する.
17時55分に再び活発化. 18時00分には最盛期を迎え,18時01分頃には火山雷が少なくとも3回観測された. 大量の火山灰が北の方角へ流れていき,噴煙高度は少なくとも1500m程度にまで達する. 18時15分には再度火山雷が起こる. 18時25分頃になると日没のため次第に辺りが暗くなり観察は困難になったが,噴煙はまだ活発なままであった.
なお,観察者は18時30分に定点1を撤収して降灰の主軸へ向かったため,これ以降の活動の推移は不明である.
この噴火による大量の火山灰は北方向に降下した.対岸の洞爺町(火口から北に約10km;筆者は19時00分頃に現地にて降下中の火山灰のリアルタイム採取を行なった)では辺り一面がうっすらと火山灰に覆われていた(層厚1mm程度).2000年噴火において,広域的に顕著な降灰を伴う爆発はこのイベントが最後のものであった.


4.4月5日の様子(観測時間=8時15分〜14時05分頃)

4.1 4月5日の活動の概要

4月5日の観測時間中は,顕著な降灰をもたらすような噴火はほとんど見られず,9時07分頃の爆発がやや目立つ程度であった.

4.2 4月5日の活動の写真

写真21:金比羅山火口9時07分頃のやや規模の大きな噴火(4月5日09時09分撮影;東湖畔の発電所=定点2=より)
9時07分頃に高いコックステールジェット(高さ200-300m)で始まり,激しい爆発が連発した.爆発音も聞こえた. 9時15分頃にはほぼ治まった.
4月5日の観測時間中は,このほかには大きな爆発は見られなかった. 小規模な爆発が数カ所(少なくとも5ケ所)の火口から交互に起こっていた.

写真22:サイロ展望台から見た有珠山の様子(4月5日15時49分撮影;サイロ展望台=定点4=より)
撮影当時,金比羅山と西山西麓の両火口群から連続的に弱い白煙が立ち上っていた.
サイロ展望台(定点4;火口から北に約7km)は有珠山の活動を遠望するための立地条件に優れていたため,研究者ばかりでなくマスコミ関係者を始めとする多くの人々が集まっていた.
なお,4月5日は午後から雨雲が広がり,14時半頃から(仲洞爺の場合)降雨となっている.撮影時も雨が降っており,そのため有珠山は霞んで見えている.


5.まとめ

有珠火山の活動状況を4月3日〜5日に遠望観察した. 主な観察事項を以下にまとめる.