7.3 地震活動・地殻変動
地震活動の変化

1992年以降の口永良部島の月別火山性地震回数(井口,2007より).
1980年9月の割れ目火口からの水蒸気噴火以降,現在(2006年3月)まで噴火は発生していないが,地震活動や地殻変動などは活発な状態にある.1996年ごろより,口永良部島火山で発生する火山性地震の回数が増加し始めた.
口永良部島火山における火山性地震(井口,2002,Triastuty et al., 2007)の震源は,その多くが新岳火口直下に求められている.井口ほか(2002)によると,新岳火口で発生する高周波地震の震源は,新岳火口の西縁に沿った,標高100〜400m(火口からの深さ100〜400m)と極めて浅いところで発生している.震源分布が地表における噴気活動地帯とほぼ一致していることから,これらの地震活動は新岳火山体内部での熱水活動に関係していると考えられている.(井口ほか,2002;井口,2007;Triastuty et al., 2007).

口永良部島新岳山頂付近の震源分布。a)高周波地震、b)低周波地震、c)モノクロマティック地震。(Triastuty et al., 2007より)
地殻変動
群発地震活動を挟む1995/96年と2000年12月に行われた島内のGPS測量で,明瞭な山体膨張が捉えられた.山体膨張は,これらの群発地震活動と関連したものと考えられた.半無限弾性体内の単一力源を仮定した場合の膨張源位置は,新岳火口の東約500m,海面下100〜500mとなった.山麓の変位は,この程度の深度に力源を考えなければ説明できないので,少なくとも膨張源の1つは海面下数100mのところにあるのであろう.磁気や熱異常等の観測データとも合わせ新岳の浅部熱水構造が示された(井口ほか2002).
2004年4月から始めた山頂部の連続GPS観測により,2005年1月頃の群発地震活動に伴う僅かな変位を捉えられた(斎藤・井口,2006).変位源は新岳山頂火口直下約300mほどに求められ,高周波地震の活動域と一致することが判明した.これにより2005年1月の群発地震活動と山体変動は,山頂火口直下浅部の熱水溜まりの膨張により生じたものと考えられた(斎藤・井口,2006).また,2006年9月から11月にかけても山頂部の膨張を示す地殻変動が検出された(斎藤・井口,2007).2008年9月から開始した膨張は2009年1月現在も継続している.
これらの活動時には,山頂火口周辺で僅かに噴気増加が認められたものの,噴火には至らなかった.地下浅部の熱水溜まりには,地表面にcmのオーダーの変形を及ぼす圧力を蓄圧していることになる.口永良部島の噴火活動は総じて爆発的であるが,この蓄圧機構がその原動力になっている可能性がある.

新岳山頂北西に設置されたGPS観測点。火口周辺の変動を監視する。

2004年4月〜2007年1月までの地震活動頻度(最下段)と,新岳火口縁のGPS観測点の山麓点(地理院基準点)に対する相対変動(斉藤・井口,2007).2005年1-2月および2006年9-11月の地震活動の活発化に伴う山体の膨張がとらえられている.

新岳浅部の地震活動,熱水活動および地殻変動から求められた圧力源を新岳を通るA-B-C地質断面に投影した.高周波地震震源の分布(2000年11月29日〜01年3月18日),深部の圧力源の位置は井口ほか(2002)による.2005年1月の膨張変動の圧力源の位置は斎藤・井口(2006)による.