鉱物分類の解説
第4展示室の鉱物標本は以下のような分類で展示されています.
- 元素鉱物
- 単一元素および貴金属元素(金・銀・白金属)間の合金で構成される鉱物.鉱物種は限定されるが,
非化合物である点で,その他のあらゆる鉱物(化合物)と区別される.
- 硫化鉱物 ・硫塩鉱物
- 硫黄(またはセレン,テルル,砒素,アンチモン,蒼鉛)と金属〜半金属元素とが結合している鉱物.
硫化鉱物は,単純金属硫化物(例;黄鉄鉱 FeS2),硫塩鉱物(例;車骨鉱 PbCuSbS3),
半金属硫化物(例;鶏冠石 AsS)に細分される.半金属元素には砒素・アンチモン・蒼鉛などがある.
また硫塩鉱物とは,金属元素・半金属元素・硫黄からなる複硫化物.
硫化鉱物は,一般的に,金属光沢が強く,重く,不透明.銀・水銀・銅・鉛・亜鉛・モリブデンなど重要な金属の鉱石の大部分がこの分類群に属している.
- ハロゲン化鉱物
- フッ素・塩素などのハロゲン元素と結合している鉱物.代表例は蛍石(CaF2)と岩塩(NaCl).
ハロゲン化鉱物は,一般的には透明で,ガラス光沢があり,水に溶けるものもある.
ハロゲン元素と結合していても,酸素酸基を持つ場合はそれらの分類群に入れられる.
- 酸化鉱物
- 酸素(または水酸基[OH]-)が陰イオン,他の元素が陽イオンとなって化合している鉱物.
単純酸化物・複酸化物・水酸化物に3大別される.一般に透明感があり,硬度の高いものが多い.
資源として重要な赤鉄鉱(Fe2O3)・磁鉄鉱(Fe3O4)・軟マンガン鉱(MnO2)・錫石(SnO2)・閃ウラン鉱(UO2), 自然の造形の粋 水晶(石英の自形結晶),宝石として珍重されるルビー,サファイア(鉱物名は鋼玉(コランダム);Al2O3)など,日常生活に関係の深い鉱物が多く含まれる.
- 炭酸塩鉱物
- 炭酸基 [CO3]2- を持つグループ.方解石(CaCO3)がこの代表例.
炭酸基と珪酸基の両方を含むものは,珪酸塩鉱物として扱われることがふつう.
一般的には,透明感があり,塩酸に侵され(発泡して炭酸ガスを遊離する),硬度が4以下と低い.
方解石・ドロマイトは,それぞれ石灰岩・苦灰岩などの炭酸塩岩の主成分で,産業的にも重要.
- 硼酸塩鉱物
- 硼酸基をもつグループ.硼酸基の形には変化が多く,20種以上知られている.(例えば,[BO3]3-,[BO4]5-,[B2O5]4+など).
代表例としては,曹灰硼石(テレビ石の俗称で知られている;NaCaB5O6(OH)6・5H2O).珪酸基を含むものは珪酸塩鉱物.
硼酸塩鉱物の種類は少なく,無色透明で,白色のものが多い.日本にはあまり産出しない.資源としては,大陸の乾燥地帯のものが重要.
- 硫酸塩鉱物
- 硫酸基[SO4]2-を持つグループ.代表的なものは,石膏(CaSO4・2H2O)や重晶石(BaSO4).
透明なものがほとんどで,硬度は高くなく,水に溶けやすいものがかなりある.また脱水や潮解(大気中の水蒸気を吸収してそれに溶解する現象)するものがある.
金属鉱床のまわりや地熱地帯に発達する変質帯などに,しばしば産出.また,地表近くで硫化鉱物の分解によりできるものも多い.
- クロム酸塩鉱物・モリブデン酸塩鉱物・タングステン酸塩鉱物
- それぞれ,[CrO4]4-,[MoO4]2-,[WO4]2-を持つグループ.
Mo・W は互いに置き換わることがある.また,クロム酸塩鉱物には[Cr2O7]2-を含むものもある.
それぞれの代表例としては紅鉛鉱(PbCrO4),モリブデン鉛鉱(ウルフェナイト)(PbMoO4),灰重石(CaWO4)がある.
クロム酸塩鉱物・モリブデン酸塩鉱物は一般に美しい色彩と結晶を持ち,標本として見映えがする.
- 燐酸塩鉱物・砒酸塩鉱物・バナジン酸塩鉱物
- それぞれ[PO4]3-,[AsO4]3-,[VO4]3- を持つグループ.
最近では[X2O7]4-の形のものも知られている(X=P,As,V).
P・As・Vは互いに置き換わることがよくあって,対応する鉱物種の間での性質もよく似ている.
それぞれの代表例としては,フッ素燐灰石 (Ca5(PO4)3F),スコロド石(FeAsO4・2H2O),バナジン鉛鉱(Pb5(VO4)3Cl)がある.
歯や骨は,燐酸塩鉱物の1つ,水酸燐灰石(Ca5(PO4)3(OH))からできている.
燐酸塩鉱物の多くは透明感があり,硬度は6以下.鉱物種数は多いが,日本に産するものは比較的少ない.
砒酸塩鉱物・バナジン酸塩鉱物は,ともに色彩が美しいものが多いのが特徴.
- 珪酸塩鉱物(ネソ・ソロ・シクロ(サイクロ)・イノ・フィロ・テクト珪酸塩鉱物)
- 有機化合物の世界で炭素が中心的な役割を果たしているように,鉱物の世界では珪素(Si)が主役を演じている.
珪酸塩鉱物の構造の基礎は [SiO4]4- 正四面体(以下珪酸四面体と呼ぶ)で,Siを中心としてOが各頂点に配列している.
この珪酸四面体どうしがさまざまに組み合わされて鉱物の骨組みを作っているので,鉱物種の数は飛躍的に増すことになる.
中学から高校の教科書にでてくる造岩鉱物(橄欖石(かんらんせき)・輝石(きせき)・角閃石(かくせんせき)・雲母(うんも)など)はこの分類群に属する.珪酸塩鉱物はガラス光沢を示すことが多い.細分は珪酸四面体の配列様式に基づいて行われる.
- ネソ珪酸塩鉱物
- ”ネソ”とは,ギリシャ語で「島」を意味する.珪酸四面体1個が孤立している.最も単純な基本基 [SiO4]4- を持ち,橄欖石族(例;苦土橄欖石 Mg2SiO4)や,ざくろ石族(例;鉄礬(てつばん)ざくろ石 Fe3Al2(SiO4)3)の構成員はこのグループに属する.
- ソロ珪酸塩鉱物
- ”ソロ”とは,ギリシャ語で「群」を意味する.ソロ珪酸塩鉱物は基本基として,連結した2個の珪酸四面体(1つの頂点を共有している) [Si2O7]6- を持つグループ.代表的鉱物は異極鉱(Zn4Si2O7(OH)2・H2O).
緑簾石(りょくれんせき)・ベスブ石・パンペリー石のように基本基を2つ([Si2O7]6-と[SiO4]4-)持つものは,複雑な方の基本基(この場合は [Si2O7]6- )の種類により細分され,これらの鉱物はソロ珪酸塩鉱物に分類される.
- シクロ(サイクロ)珪酸塩鉱物
- ”シクロ”とは,ギリシャ語で「サイクル(輪)」の意味.3つ以上の珪酸四面体が2個の頂点を共有して環(リング)状につながっている.
珪酸四面体の組合せは3,4,6,8,9,12個などがあるが,8個以上の組合せは極めてまれ.
基本基は [Si3O9]6- , [Si6O18]12- などがある.
6個の組合せの例としては緑柱石(Be3Al2Si6O18),鉄電気石(NaFe3Al6(BO3)3Si6O18(OH)4)がある.
- イノ珪酸塩鉱物
- ”イノ”とは,ギリシャ語で「鎖(くさり)」を意味する.1本の鎖のように珪酸四面体が,2個の頂点を共有して,一方向に無限に長く結合しているものがこのグループの最も簡単な形.その基本基は[Si2O6]4- で,輝石族がその代表例(例;ひすい輝石 NaAlSi2O6).鎖が2本横につながったもの(二重鎖;基本基)[Si4O11]6-)の代表例が角閃石族(例;透閃石Ca2Mg5Si8O22(OH)2).さらに,三重鎖,三重鎖と二重鎖からできている種も知られている.Siの一部はALで置換されることがある.
- フィロ珪酸塩鉱物
- ”フィロ”とは,ギリシャ語で「葉片のように薄いもの」という意味.珪酸四面体が3個の頂点を共有して層を作っているものが基本となっており,基本基は [Si4O10]4-
である.Siの一部がAlに置換されているものも多い.イノ珪酸塩鉱物が二次的に無限に重合した∞重鎖と見なすこともできる.雲母や粘土鉱物と総称されるものはこのグループに属する(例;白雲母 KAl2(AlSi3)O10(OH)2).
珪酸四面体からできている層と層の間は伸縮性に富んでおり,イオン半径の大きい原子や水分子が入る.そして層間の結合力は弱いため,雲母はぺらぺらと一方向にはがれやすくなっている.
- テクト珪酸塩鉱物
- ”テクト”とは,ギリシャ語で「立体構造」を意味する.珪酸四面体が4つの頂点を共有しあって,立体的な網目状構造を作っている.基本基には必ずアルミニウムが珪素を置き換えて含まれている.基本基には
[AlSi3O8]-
,[Al2Si2O8]2-
,[Al2Si4O12]2-
,などがある.
代表的なものは長石族(例;微斜長石 KAlSi3O8),準長石族(例;霞石(かすみいし) (Na,K)AlSiO4),沸石族(例;方沸石 NaAlSi2O6・H2O)など.
沸石族は,珪酸四面体からなる立体的な網目状構造の中に大きな空隙が発達し,構造が壊れることなく水分子・アルカリ金属イオン・アルカリ土類金属イオンが自由に出入りできる特徴をもっている.沸石族の鉱物はどの種も多量の水分を含み,加熱するとこれを放出する.その際に,鉱物全体が沸騰するように見えるためこの名前がある.なお,石英はテクト珪酸塩鉱物または酸化鉱物として扱われるが,第4展示室の分類展示では酸化鉱物として分類してある.
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