要旨集
地質調査研究報告
Vol.55 No.1/2 2004


関東平野南部における土壌の地球化学的研究
― 土壌地球化学図の基礎研究(第5報)総括―

寺島 滋・今井 登・太田充恒・岡井貴司・御子柴真澄

 土壌地球化学図の作成に関する予察的研究の総括として,関東平野南部で新たに採取した土壌柱状・表層試料中の主・ 微量成分元素を分析し,土壌中元素の地球化学的挙動を総合的に研究した.土壌における元素の生物濃縮は,実際の樹木・ 草本試料を灰化・分析して評価した.土壌柱状試料における元素濃度の鉛直変化を支配する要因としては,土壌化の影響, 生物濃集,土壌母材の起源等が重要である.生物濃縮の影響を受けないAl, Ti, Fe, Li, Cs, Tl,Be, Co, Cr, Ni, V, Ga, La, Ce, Th, U, Y, Zr等は表層部よりも下層部で高濃度を示すが,これは土壌化に伴なう移動と,水分や腐植質物質による 希釈効果である.生物濃縮の影響が大きい元素は,P, Sb, Zn, Cd, Cu, Ca, Pb, Bi,Mn, Sr, K, Mo, As, Sn等であり, これら元素の大部分は柱状試料の最表層部で高濃度を示す.Mn, Ca, K, Cu等は,最表層部で高濃度を示さない場合が多いが, これは生物濃縮の影響よりも土壌化に伴う溶出や水分等による希釈効果が大きいためであろう.黒ボク土の主要母材は, 火山噴出物,近傍裸地からの風塵再移動堆積物,広域風成塵等の大気経由物質であり,元素濃度の地域変化は小さい. 褐色森林土の母材は,表層地質を構成する岩石等の風化物を主とし,これに若干の大気経由物質が付加されたもので, 元素濃度は地質区分毎に異なる.沖積層土壌は,河川由来の砕屑物と大気経由物質の混合物が母材である.土壌地球化学図は, 環境汚染の評価と元素濃度のバックグラウンド値を判定するうえで重要な資料である.


北上山地における花崗岩関連鉱床の硫黄同位体比

石原舜三・佐々木昭

 北上山地の白亜紀(一部古第三紀) 花崗岩類に関係する金属鉱床産の硫化物50個について新たにδ34S値を求めた. 既報の8分析値とともに,その成因的意味について考察した.検討した鉱床と採石場は37である.鉱種別ではMo鉱床が 最も高く
-0.5〜+3.55 ‰δ34Sであり,そのうち花崗岩類を母岩とするMo鉱床は平均+0.7 ‰δ34S(n=4)であり,岩石δ34S値に 最も近い.ベースメタル鉱床はスカルン型が主体であるが,日峰鉱床産の低い値を除くと,-3.4 〜+5.5 ‰δ34Sであり, Mo鉱床よりもばらつく. Au鉱床・W鉱床の多くは堆積岩類中に分布するが,全般的に低い値を示し,特に枡内(Au), 東磐井(Au-W)で顕著であり,ここでは堆積性の還元硫黄種の混入,またはそれとの同位体交換が考えられる.金鉱床は 鉱石のAu/Ag=1を境に同比が高く硫化物に乏しい高Au/Ag型と,同比が低く硫化物に富む低Au/Ag型に分けられる.前者は -13.8〜+2.8 ‰δ34Sで,一部で堆積性硫黄の貢献が考えられ,後者は-0.8〜+5.5 ‰δ34Sの同位体比を持ちマグマ硫黄の 寄与度が高かった.北上山地の花崗岩体内鉱床のδ34S値は,西南日本内帯のMo生成区の値よりも低い.その原因は北上山地の 花崗岩マグマが後者よりも低いδ34S値を持ち,かつ鉱液の酸化度も低かったことによるものと考えられる.


瀬戸内高マグネシア安山岩及び玄武岩の希土類元素組成:
日本海拡大時におけるマントルウエッジの組成変化に関する示唆

下田 玄・長井正博・森下祐一

 日本海拡大が西南日本のマントルウエッジに及ぼした影響について評価するために,瀬戸内火山岩類の初生的な 高マグネシア安山岩(HMA)と玄武岩について希土類元素を測定した.噴出年代の古い大阪地域のHMA(13.9 Ma)は, 噴出年代の若い小豆島地域のHMA(12.7 Ma)に比べ,軽希土類元素の濃度が高く,かつ重希土類元素濃度が低い. この希土類元素パターンの特徴を説明する為に,混合計算を行った.その結果,30〜70%のアセノスフェリック成分 (MORB source like materials)と,大阪地域のHMAから見積もられたマントル成分70〜30%が混合すれば,小豆島HMAと 玄武岩の希土類元素パターンが説明できることが解った.この結果は,日本海拡大時にアセノスフェアーが,西南日本の マントルウエッジに貫入したことを示唆する.すなわち,高温のスラブの沈み込みとともに,高温のアセノスフェアーの流入が, この地域の異常な高温状態を達成した可能性がある.この観点から見ると,瀬戸内地域や外帯における火成活動の成因, 西南日本の回転,日本海拡大という一連の現象が,整合的に理解できる.


斜長石双晶法再考?特にペリクリン双晶の重要性

高橋裕平

 さまざまな花崗岩類と石英長石質変成岩類について斜長石双晶を調べ, C双晶(アルバイト及びペリクリン双晶を除く双晶)と ペリクリン双晶の頻度が地質学的な条件を識別するのに有効であることを論じた.
 領家-山陽帯の花崗岩類の斜長石双晶頻度は,広い範囲のC双晶頻度(4〜44%)に対して,ある程度(10〜38%)のペリクリン双晶を 含む(RS型).日高変成帯の花崗岩類の斜長石双晶頻度は,低ないし中程度のC双晶頻度(0〜20%)に対して広い範囲のペリクリン双晶 (2〜34%)を含む(HD型).これらの領域は大陸縁辺あるいは島弧の活動域における花崗岩類の斜長石双晶の特徴かもしれない. これに対して,これらの領域から外れるもののうち,さまざまなC双晶頻度にかかわらずペリクリン双晶をあまり含まない花崗岩類が ある.一つの可能性として大陸内部の後-非造山性の火成活動を特徴づけるのかもしれない.
 このような斜長石双晶頻度の違いのうち,特にペリクリン双晶の頻度の違いは,マグマのさまざまな粘性によりもたらされた 剪断応力の違いによって説明できる.マグマの粘性の違いは,結晶化作用時の残存メルトの量の違いからもたらされ,それは さまざまなテクトニクスに関係したマグマの特徴を反映している.
 石英長石質の変成岩類のうち,低度の変成岩類(緑色片岩相から低度角閃岩相)では少量のペリクリン双晶を含む.これに対して 高度の変成岩類(高度角閃岩相からグラニュライト相)では少量から中程度の量のペリクリン双晶を含む.剪断作用を受けた 高度変成岩類は多量のペリクリン双晶を含む.これらは,高温下で剪断応力を受けるとペリクリン双晶を生じるという既存の 実験結果から説明できる.