要旨集
地質調査研究報告
Vol.52 No.11/12 2001


奥会津地熱地域・中新統滝沢川層にみられる変質 −貯留槽母岩の地熱変質とその地化学的特徴−

関 陽児

奥会津地熱地域に分布する下部中新統滝沢川層を主な対象として, 貯留槽深度における,現在の地熱活動による母岩の変質を記載する とともに,変質に伴う化学成分の移動傾向を明らかにし,変質帯の 成因を考察した.
滝沢川層は地熱系の貯留槽深度(地表下1000〜2000m)および地熱系外 西方の地表に広く分布し,流紋岩〜デイサイトの溶岩および同質火山 砕屑岩からなる.
地熱系外の滝沢川層は,イライト,緑泥石を特徴鉱物とし基質の脱ハリ, 粘土鉱物化,方解石化,黄鉄鉱化を伴う広域的な続成変質を受けている.
地層温度約100ºC以上の領域を現在の地熱系の温度影響範囲内(「地熱系 内」)とみなすと,そこに分布する滝沢川層には,中新世の広域続成 変質に現世の地熱変質が重複した結果,四つの変質帯,すなわち イライト・緑泥石+帯,イライト帯,カオリナイト帯,混合層粘土鉱物 帯が形成されている.
イライト・緑泥石+帯はイライト,緑泥石,硬石膏により特徴づけられ, 石英,斜長石,黄鉄鉱を伴う.貯留槽深度の上方(深度300−1000m) ではしばしば多量の苦灰石,菱鉄鉱を,一部でマゲネサイト, 菱マンガン鉱,閃亜鉛鉱を伴う.基質の粘土鉄鉱化,硬石膏化, 炭酸塩鉱物化,黄鉄鉱化が普通に見られる.貯留槽深度(深度1000− 2000m)とその上方に広範囲に分布する.
イライト帯はイライトにより特徴づけられ,石英,苦灰石,菱鉄鉱を 伴う.イライト・スメクタイト混合層鉱物,カリ長石,斜長石, 菱マンガン鉱,黄鉄鉱を伴うことがある.高温部では硬石膏を伴う. 基質および斜長石の粘土鉱物化,炭酸塩鉱物化,硬石膏化が進んでいる. 貯留槽深度より浅所の貯留槽裂罅延長部の近傍の一部に局所的に 分布する.
カオリナイト帯にカオリナイト,菱鉄鉱,苦灰石により特徴づけられ, 石英,斜長石を伴う.イライト,硬石膏,黄鉄鉱を伴うことが多い. イライト,カリ長石,スメクタイトを伴うこともある.基質および 斜長石の粘土鉱物化,炭酸塩鉱物化が進んでいる.貯留槽深度より 浅所(深度1000m以浅)に,大局的には裂罅に規制されながらも 水平方向にも発達した不規則な形態で分布する.
混合粘土鉱物帯はイライト・スメクタイト混合層鉱物または緑泥石・ スメクタイト混合層鉱物により特徴づけられ,石英,斜長石を伴う. 緑泥石,苦灰石,菱鉄鉱を伴うことが多い.基質および斜長石の 粘土鉱物化,炭酸塩鉱物化が進んでいる.滝沢川層中に現れる混合層 粘土鉱物帯は,カオリナイト帯と相接して局所的に分布する.
地熱系外の滝沢川層を基準として,Alによる規格化を行い,地熱系内の 各変質帯における化学成分の移動度を算出した.その結果,地熱系内の 全ての変質帯で化学成分の移動が認められた.すなわち,Ca, S, As, Cu の付加とCs の除去が全ての変質帯で認められるとともに,Na の 除去とMn, Au, Ag の付加がイライト帯で,またFe, Mn, Mg の付加が カオリナイト帯でそれぞれ認められた.
変質帯と地熱系の地質・温度・水理構造や流体の化学性状などを合わせて 考察すると,系内にみられる多様な変質帯は,それぞれが系内に 分化した物理化学条件やその変化に対応して形成されたと考えられる. すなわち,イライト・緑泥石+帯はCO2ガスに富む高塩濃度の地熱 流体が貯留槽中を移動しつつ周辺母岩中に浸透することにより, イライト帯は相対的に透水性の高い岩石中を地熱流体が沸騰しつつ 浸透することにより,カオリナイト帯は貯留槽深度周辺における 気液分離で生じたCO2ガスが浅層の地下水に吹き込むことで生じた 低温の炭酸酸性水と母岩との反応により,混合層粘土鉱物帯は カオリナイト帯が形成された場所の最も外側で低温の浅層地下水により, それぞれ形成された.


石川県に分布する鷲走ヶ岳月長石流紋岩質溶結凝灰岩の 古地磁気とフィッション・トラック年代

伊藤康人・土志田正二・北田数也・壇原 徹

鷲走ヶ岳月長石流紋岩質容結凝灰岩(以下,鷲走ヶ岳流紋岩)は, 西南日本東部の中新統北陸層群の最下部に位置づけられる.日本海の 背弧海盆拡大に伴う西南日本の回転運動を明らかにするため,鷲走ヶ岳 流紋岩の古地磁気測定とフィッション・トラック(FT)年代測定を 実施した.安定な地点平均古地磁気方位とジルコンFT年代が,それぞれ 5地点と3地点で決定された.FT年代は20〜22 Maの範囲で,Rb-Sr 全岩アイソクロン法による以前の年代と調和する.20 Ma前後の数値 年代は,熱水変質イベントの時期に対応しており,それは鷲走ヶ岳 流紋岩の再磁化を引き起こしたと考えられる.傾動補正を行った 古地磁気方位は大きく東偏し(約50º),調査地域が20 Ma以降に 時計回りに回転したことを示す.近隣丘陵の医王山層(15〜16 Ma) の古地磁気方位との比較から,今回の結果は,調査地域が前期中新世 には有意に回転しなかった可能性を示唆している.


ベトナム北部タンマイ鉱床のパイロフィライト化作用
−予察調査結果−

平野英雄・青木正博・須藤定久・グエン バン クイ

ベトナム北部のタンマイパイロフィライト鉱床は5つの鉱体で構成され, うち2鉱体が開発されている.鉱床の原岩は珪長質火山岩で,鉱床は 鉄分の少ない変質岩からなる.変質岩をその構成鉱物から,カオリン帯, パイロフィライト帯,珪化帯,ダイアスポア帯,アルーナイト帯に 区分することを試み,その生成順序と物理条件を推定した.最初にカオリン帯が 形成された.熱水の温度上昇に伴い,パイロフィライト帯と 珪化帯が,それぞれの原岩透水率の違いにより形成された.ダイアスポア帯は 珪化帯中の割れ目に沿って形成されているが,その産状から熱水の温度上昇よりは, むしろ垂直的な割れ目の生成にともなうPH2Oの 低下が原因で形成されたらしい.アルーナイト帯は熱水活動の末期に 形成された.鉱床の主体をなすパイロフィライト帯の形成温度は, その鉱物組み合わせからおよそ260-290ºCと見積もられる.